魔法具・魔法学コンテスト(3)
学園の敷地内に出た頃には、冷たい夜風が二人の頬を撫でた。セドリックは深く息を吸い込みながら、振り返りもせずに言葉を漏らす。
「……あいつ、あそこまで追い詰められてたんだな」
「そうですわね」
エレノアは足を止め、微かに眉を顰めた。
「ただ、やはり彼の行動は看過できるものではありませんわ」
セドリックは一瞬考え込む。
「正直言って、王室の監査が入るようになったという事実があれば、ヴァニエルの行為が自然に明るみに出る気もする。でも……あのまま放置するのも気がかりだ」
エレノアは真剣な表情でセドリックを見つめる。
「それなら、この件は私に任せていただけませんか?」
「貴女に?」
セドリックは驚いた顔を向けた。
「エレノア、危険なことになるかもしれない。下手に首を突っ込んだら、貴女だって巻き込まれるんだぞ」
真剣な顔で説き伏せるセドリックに、エレノアの心が暖かくなる。相手がヴァニエルであればこんな時は「平民のお前に何ができる」などと言って馬鹿にしてきたであろう。だがセドリックが反対する理由は、純粋にエレノアを心配する心からくるものだ。それに居心地の良さを感じながらエレノアは柔らかな笑みを浮かべたのち、真剣な声で告げる。
「危険なことは承知の上です。でも、ただ考えなしに突っ込んでいる訳ではありません。…だから、私に任せて欲しいんです。……セドリック様、私のことを信じてくださいますか?」
その言葉にセドリックは一瞬言葉を詰まらせたが、やがて小さく息を吐き出した。
「……わかった。あなたがそう言うなら任せる。…あの時も、あなたを信じて正解だったしな」
「ありがとうございます」
エレノアは頷き、セドリックの目をしっかりと見つめた。
「大丈夫です。この件、きちんと処理してみせますわ」
セドリックは少し不安そうな表情を浮かべながらも、彼女の意思の強さに押され、最終的に頷いた。冷たい夜風が再び吹き抜ける中、二人はそれ以上言葉を交わさず、学園の敷地を後にした。