王立学園(2)
教室のざわめきの中、友人の一人がふと思い出したように話題を振った。
「そういえば、今魔道具・魔法学コンテストが開催中だろ?あれって、王家主催だよな」
セドリックはその言葉に軽く反応したが、黙って聞き流す。友人たちの興味はさらに広がっていった。
「王家主催ってことはさ、もしノエル嬢みたいな王族クラスの令嬢と婚約できれば、コンテストでも有利になるんじゃねえか?」
「おい、それは流石に忖度しすぎだろ。王家がそんな不公平なことするかよ」
別の友人が肩をすくめながら反論した。
すると、冗談好きな友人がニヤリと笑いながら口を挟む。
「いやいや、もし俺なら、王家じゃなくてコンテストの運営を任されてる魔法団体を買収するね」
その一言に、友人たちは大いに笑った。
「お前、それは流石に狡猾すぎるわ」
「そんなこと俺たち以外に話してみろ。絶対どこかで怒られるぞ」
セドリックも笑いに加わったが、内心ではひそかに何かが引っかかるのを感じていた。
確かに、この魔法具・魔法学コンテストは、賞金や名誉はもちろんのこと、優勝者には王家からの全面的な研究資金の支援が約束されている。そして、王家とのコネクションも生まれるという特権は、名誉を追い求める貴族や研究者にとって、まさに喉から手が出るほど魅力的なものだ。だからこそ、裏で不正や贈賄、横領といった裏取引を考える者が出てくるのも、決して不思議ではないのだ。冗談を言った彼自身は、そんな不正を本気で考えるような性格ではないが、実際にそれを実行に移す人間がいないとも限らない。
この学園でも、卒業を控えた生徒たちの多くが卒業制作を兼ねてこのコンテストに作品を応募している。コンテストに優勝すれば、その後のキャリアも格段に広がるため、競争は熾烈だ。
セドリックもその一人だった。彼はこのコンテストに「小型体温調節機」を出品している。これは、かつてエレノアに協力してもらい解析した、双剣のロゴマークが刻まれた大型空調機具を基に開発したものだ。大型の空調機具をより小型化し、持ち運び可能な形に改良したものである。
この体温調節機は、魔法のエネルギーで寒い日には温かさを、暑い日には涼しさをもたらしてくれる優れものだ。懐に忍ばせるだけで、外気温に関係なく快適な温度を保てるのだから、日常生活だけでなく、冒険者や騎士、農民たちにも重宝されるはずだった。
セドリックは、エレノアとの共同作業で得た知識を活かし、細部までこだわり抜いて制作を完成させた。
「寒い日も暑い日も、これ一つで快適な温度を保てる。それだけでも十分実用的だし、需要も高いはずだ」
セドリックは、その機能を信じていた。改良を重ねた末に完成したこの作品には、エレノアとの努力が詰まっている。
「セドリック、お前もコンテスト出すんだろ?どんなもん作ったんだよ?」
友人の問いに、セドリックは簡潔に答える。
「まあ、ちょっとした魔道具だよ。これが使えれば、寒さや暑さに苦労することはなくなるって代物だ」
「へえ、便利そうじゃん!そういう実用的なやつの方が審査員ウケも良さそうだな」
「まあ、どうなるかは分からないけどな」
セドリックは肩をすくめながら答えたが、その表情には確かな手応えが滲んでいた。
友人たちの会話が続く中、セドリックはふと、エレノアと過ごしたあの日を思い出す。彼女と共に解析し、改良案を練り、試行錯誤を繰り返した日々。
「エレノアがいなかったら、この作品もここまで完成度を上げられなかっただろうな……」
そう静かに考えながら、セドリックは改めてエレノアへの感謝の念を抱いた。




