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べたすぎるほど悪人顔で、そこに立っていたのは。
柿沼大魔神とお取巻きの皆様でした。
「なんかパタパタ音がすると思ったら、先日はどうも? 久我先輩」
「はぁ、どうも」
一生懸命避けてたのになぁ……
思わず溜息をつく。
「お会いしたかったのに、随分逃げ回ってくれましたね」
綺麗なお姉さんの見てくれで、上から睨まれると確かに威圧感があるかも。
でも、顔がいいのって結構見慣れてる自分がいるんですよ。
幼馴染の欲目を引いたって哲は格好いいし、友達の欲目を引いたって加奈子は綺麗。
そんな二人から喜怒哀楽を突きつけられてごらん?
ちょっとやそっとの感情じゃ、動揺しなくなるから。
まぁ、今までの経験上、逆切れされて怒鳴り散らされること自体にもなれちゃってるんだけどね。
――しっかし、こういういじめって会社でもあるんだなぁ
呆気にとられながら、柿沼の言葉を黙って聞く。
「一体先輩は、誰がお目当てなんです? 加倉井課長? 哲弘先輩? 真崎先輩?」
いや、真崎さんは関係ないし。
突っ込んでも怒られそうだからやめておこう。
「それとも、あの可愛らしい取引先の人?」
可愛らしいって、あんたより年上だよ。
「先輩のどこがいいのか、さっぱりわかんないんですけど」
そんなこと、言われたかないよ。
まぁ、私にもさっぱりだけどさ。
「大体、先輩がいるから誰も近づけないんです。その所為で課長も哲弘先輩も、他に目を向けられないんです。わかりませんか?」
いや、そう言われても。
傍にいるっていうか、同じ部署だし。
私の所為では……
とりあえず、だんまり。
何言ったって、火に油注ぐだけ。
「――馬鹿にしてるんですか?」
あ、裏目に出た。
「馬鹿にはしてないけど」
「それが馬鹿にしてるって言うんですよ、分からないもんですかねぇ」
うわっ、口調が変わった! こっえー
本当は黙ってやり過ごそうとしたけれど、そういうわけにはいかないみたい。
私より背の高い柿沼は怒りに震えていて、威圧感バリバリで見下すような視線は、どうやっても流せるようなものではないらしい。
本当は、どこかで逃げてしまおうと思っていたけれど――
「私のことは、柿沼さんには関係ないんじゃないかなぁと思うんだけど」
「――ホントいらいらさせてくれますよねっ」
冷たく言い放った途端、彼女の手が私の方に伸びる。
見えるのは、コーティングされた長い爪。
一瞬頬が熱さを感じて、びくっと肩が竦む。
コーティング爪! 恐るべしっ!
明らかに、敵意をむき出しにしたその雰囲気と振り上げられた手に、思わず一歩後ずさる。
後ろ、もう下がれないな……
右足を動かして、階段の位置を確認する。
「――自分の立場とかって考えたことありますか? 加倉井課長や哲弘先輩の隣に立つような人間だって思ってます?」
知るかーっ、じゃぁお前は隣に立つ人間なのかよっ
ていうか、課長が好きなの? 哲が好きなの? 真崎さんは眼中なさそうだけど、さっきから二人名前を呼んでいらっしゃいますよね?
言ったところで全うな答えが返ってくるとは思えないし、下手なことをするのは止めておこう。
なんだっけ? 立場がどうのとか言ってたっけ?
「二人とも私の同じ部署。……仕事だし、幼馴染だし。立場とかって関係あるの?」
だんだんいらいらしてきたなぁ……
なんだか頭が痛くなってきた。
最近、嫌なことばっかり。
私、何かやった?
柿沼は、くすりと笑う。
なんか、怖いな顔。
「どれだけ鈍感なんですか。会社の人間皆思ってますよ? あんたが邪魔だって」
――少なからず、面前きっていわれると結構……ショックな言葉だよね。
そこまで、言う?
あんた達だけじゃなくて?
さすがにね、この温厚な私も堪忍袋がこれでもかってほど切れ始めていてね?
はぁ、とわざとらしく溜息をついて柿沼を見る。
「そんなに一緒にいたいなら、企画課に異動希望でも出せばいいじゃない。こっちは歓迎よ? 手が足りなくて困ってるんだから」
穏便に済ませたいのに。