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こういうとき、閉鎖的な職場って幸せだな。
企画課に部外者が来ることはまずないし。
この状況、きっかけがあの飲み会だと哲が知ったら……傷つくよねぇ。
もう大人だから、大丈夫だろうと思っても。
心の柔い部分て、そんなに変わらないんじゃないだろうか。
何かおかしいと思っていても、職場だと他の人がいるから哲だって突っ込んでくることないし。
それにあの子、柿沼たちに会うの嫌がって、そうそうラウンジには行かないもんね。
噂を聞くこともあるまい。
斉藤さんは状況を知ってるから、さり気に話をそらしてくれて助かる。
噂には課長と真崎さんの事も入ってたけど、あの二人は大丈夫だと思いたい。
真崎さんは知っても少しも気にしてなかったし、課長は噂話自体気付いているとは思えない。
あとは心配する斉藤さんが、気になるけど――
両手をあげて、身体を伸ばす。
最近、あまりよく眠れないから貧血みたいに頭がくらくらする。
そんな私には、空の青さが綺麗で少し眩しい……
耳栓を詰めて聴覚を消したら、他の感覚がとても強くなるみたい。
時々流れていく風、霞がかったような風景。
青い空には、ところどころに薄い雲が浮かんでいて。
風に乗って、ゆっくりと流れていく――
それはとても幻想的で。
そんな悩みなんか小さなことだよ、といわれている気になる。
「――でもね、それが私には大きなことなんですよ」
誰に対してか分からない言葉を、小さく紡ぐ。
ズボンのポケットに入っている携帯が、振動してこの時間の終わりを告げた。
昼休憩が終わる十分前にセットしたアラーム。
もう一度空を見上げて伸びをすると、上体を起こしてポケットから携帯を取り出した。
ぱかっと開いてアラームのスヌーズ画面を消すと、その下から新着メールの表示。
閉めようとしていた携帯を、もう一度持ち直す。
メール?
ボタンを操作して本文を開くと。
――お前、どこにいるの?――
それは哲から。
おもむろにつめてあった耳栓を抜いて、辺りをうかがう。
人の声どころか音もしないのを確認して、物置の屋根から下を覗く。
さっきまでいただろう加奈子と哲の姿はなく、ほっと溜息をついた。
――外のコンビニ――
短い文章をかちかちと打って、送信する。
さて、そろそろ戻ろうかな。
壁に張り付くように設置されているはしごを伝って、屋上に降りる。
そのままドアを開けて階段を降りていくと、下から声が聞こえてきて思わず耳を澄ました。
「……ったく、いい加減つかまらないよね――」
その声に、心臓が大きな音を出す。
柿沼だ――
慌てて階段を降りると、エレベーターの横についている非常階段に身を滑らせる。
ドアが開いててよかったー。
多分、気付かれてない……よね……?
ぺたりと壁に張り付いて息を殺していたら。
「あら先輩、こんなところで何されてるんですか?」
――見つかった……