8
高校まで、哲は一緒だったから。
よく、同じことされたし言われた。
軽いいじめなんて、年がら年中だったしね。
結構辛かったけど、流す術も身につけた。
だって、哲が悪いわけじゃない。
一階まで降りた時、コートのポケットから電子音が流れ出す。
メールかと思ったそれは、着信で。
通話ボタンを押して耳に当てると、哲の押し殺した声が飛び込んでくる。
{今、どこだ}
――怒ってる……?
低く掠れた声に、一瞬立ち止まる。
「え、哲?」
{どこ}
後ろでは、女の声。
「ちょっと、哲。私仕事――」
{嘘つくなよ}
なにこれ、今までと違う。
今までこういうことがあっても、流しておいてくれたのに――
返答に困って口ごもっていたら、いきなり腕を掴まれて身体が前に進む。
後ろから亨くんが追いついてくるのが見えた。
その間も引っ張られるまま、足は前に動いてて。
私の腕を掴む男を、びっくりしたままの表情で見上げる。
「哲、一体どうしたの……?」
「うるせぇよ、嘘ついて帰ってんじゃねぇ」
「いや、嘘って……」
私の言葉を、睨んでとめる。
哲は左手に持っていた携帯をスーツの胸ポケットにしまいながら、大股でずんずん歩いていく。
そのまま、哲の後ろを小走りで引きずられていく。
亨くんを見ると、肩を少し上げて苦笑い。
しばらく歩いて、駅に着く。
やっと、哲の足が止まった。
私はお酒を飲んだ上に小走りで、だいぶ息が上がっていて。
亨くんは哲にコートを手渡した。
「じゃ、俺は帰りますね」
「――悪い、迷惑掛けて」
哲の低い声。
「別に、大丈夫。今度飲み直しましょうね、美咲さん」
顔を上げて頷く。
「うん、なんかホント……ごめん」
亨くんは手を上げて、笑いながら改札をくぐっていった。
それを見ながら、私は一息つく。
疲れた。
冬なのに、すごい暑い。
「――帰ろ?」
定期を取り出して改札を見ると、哲もポケットから定期を出した。
改札をくぐって、ホームに下りる。
丁度来た電車は、中途半端な時間だからすいていて。
席に座って、溜息をつく。
「あのな、美咲」
哲が、呟く。
「俺を、捨てていくなよ」
「え?」
右手で額を押さえる哲の表情は、半分しか見えないけれど。
「変な遠慮するな」
「でも――」
「でもじゃねぇ。……いや、いづらいのは分かってるんだけど」
呟いて、額に当てていた手で頭をガシガシとかく。
私は哲を見ることができなくて、自分の手元をじっと見つめた。
「せめて……亨じゃなくて、俺に直接言ってくれ。メールでもなんでも。……頼むから」
哲は顔を片手で隠しながら、大きく溜息をつく。
――やっぱり、嫌な思いをさせちゃったな……
ぽんぽん、と反省を意味も込めて哲の頭を軽く叩く。
「ホントごめん。……ありがとね、哲」
哲は俯いたまま私を見て、悪かった、と小さく呟いた。