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高校まで、哲は一緒だったから。

よく、同じことされたし言われた。

軽いいじめなんて、年がら年中だったしね。

結構辛かったけど、流す術も身につけた。


だって、哲が悪いわけじゃない。


一階まで降りた時、コートのポケットから電子音が流れ出す。

メールかと思ったそれは、着信で。

通話ボタンを押して耳に当てると、哲の押し殺した声が飛び込んでくる。

{今、どこだ}


――怒ってる……?


低く掠れた声に、一瞬立ち止まる。

「え、哲?」

{どこ}

後ろでは、女の声。

「ちょっと、哲。私仕事――」

{嘘つくなよ}


なにこれ、今までと違う。


今までこういうことがあっても、流しておいてくれたのに――


返答に困って口ごもっていたら、いきなり腕を掴まれて身体が前に進む。

後ろから亨くんが追いついてくるのが見えた。

その間も引っ張られるまま、足は前に動いてて。

私の腕を掴む男を、びっくりしたままの表情で見上げる。


「哲、一体どうしたの……?」

「うるせぇよ、嘘ついて帰ってんじゃねぇ」

「いや、嘘って……」

私の言葉を、睨んでとめる。

哲は左手に持っていた携帯をスーツの胸ポケットにしまいながら、大股でずんずん歩いていく。

そのまま、哲の後ろを小走りで引きずられていく。


亨くんを見ると、肩を少し上げて苦笑い。


しばらく歩いて、駅に着く。


やっと、哲の足が止まった。

私はお酒を飲んだ上に小走りで、だいぶ息が上がっていて。

亨くんは哲にコートを手渡した。


「じゃ、俺は帰りますね」

「――悪い、迷惑掛けて」

哲の低い声。

「別に、大丈夫。今度飲み直しましょうね、美咲さん」

顔を上げて頷く。

「うん、なんかホント……ごめん」

亨くんは手を上げて、笑いながら改札をくぐっていった。


それを見ながら、私は一息つく。

疲れた。

冬なのに、すごい暑い。


「――帰ろ?」

定期を取り出して改札を見ると、哲もポケットから定期を出した。

改札をくぐって、ホームに下りる。

丁度来た電車は、中途半端な時間だからすいていて。

席に座って、溜息をつく。


「あのな、美咲」

哲が、呟く。

「俺を、捨てていくなよ」

「え?」

右手で額を押さえる哲の表情は、半分しか見えないけれど。


「変な遠慮するな」

「でも――」

「でもじゃねぇ。……いや、いづらいのは分かってるんだけど」

呟いて、額に当てていた手で頭をガシガシとかく。

私は哲を見ることができなくて、自分の手元をじっと見つめた。


「せめて……亨じゃなくて、俺に直接言ってくれ。メールでもなんでも。……頼むから」


哲は顔を片手で隠しながら、大きく溜息をつく。



――やっぱり、嫌な思いをさせちゃったな……



ぽんぽん、と反省を意味も込めて哲の頭を軽く叩く。

「ホントごめん。……ありがとね、哲」


哲は俯いたまま私を見て、悪かった、と小さく呟いた。



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