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それは台風―1

気付いていた





お前のことだから 俺には分かる




分かるところが、苦しいけれど――







でも、それでも――





   頼む、もう少しだけ



足掻かせて――





――第7章 それは台風









打ち合わせの翌週、哲の携帯に亨くんからメールが来た。

「都合がよければ、飲みませんかだって」

「都合――」

デスクトップを睨みながらキーボードを打ち付ける私に、哲がひょいっと顔を横に反らせて答えを待つ。

「都合――」

私はぶつぶつその言葉を繰り返しながら、デスクトップを睨む。

「美咲?」

「うあぁぁぁっ」

その哲の声に触発されたかのように、思わず叫ぶ。


「なっ、なんだよどうした」

哲は心底びっくりしたかのように、目を見開いている。

「あ、あぁ、ごめん。なんかちょっと頭が狂った」

上がった息を整えながら、引きつった笑みを浮かべる。

「いや、データの数字が合わなくて」


哲はふぅっと息を吐くと、椅子の背もたれに身体を預けた。

「お前、俺しかいないからって、異常行動はやめろよ。驚くから」

「ごめんごめん、で、亨くんだっけ? 哲は大丈夫なの?」

携帯を弄りだした哲は、視線を落としたまま大丈夫と呟く。


「別に明日に仕事まわせばいいし。じゃ、七時に待ち合わせで返事しとく」

「わかったー」

カチカチとボタンを押す音が、微かに響く。


今日は課長以下二名は、三人揃って外回り。

夜まで帰ってこないらしく、一日哲と企画室詰め。

それにほっとしてる自分もいて。

なんだか最近、課長に振り回されてる気がする。


――お前、可愛いな


「うぁっ!」


思わず叫ぶと、哲から消しゴムが飛んできた。

「だからやめろって、心臓に悪いってのっ」


あははとひきつった笑いを向けながら、片手を挙げて謝る。


ダメだー、もう、課長の言葉が頭から離れんっ

目を瞑って小さく頭を振ると、課長のことを頭から追い出して目の前の仕事に集中する。


「さてと、じゃぁ進められるだけやっつけるかな。仕事」

メールの返信が終わったのか、哲は携帯をYシャツの胸ポケットに入れて両手を挙げて伸びあがった。

「あんた、ごきばき、凝ってる音がするわよ。おじさんねぇ」

「うるせぇな。デスクワークは苦手なんだよ」

その言葉に、キーボードの上を動いていた手が止まる。

異動願いまで出したのに、デスクワークが嫌いってどーなのそれ。

「デスクワークが嫌いなら、なんでここ来たのよ」

噴出しながら聞き返すと、哲の返答はない。


「……哲?」

どうしたのかと思ってデスクトップから視線をはずすと、哲と目が合う。

「何? どうしたの?」

「お前が、いるから」


――え?


おもわず、見返す。

真剣なその視線に、動きが止まる。

「お前がいるから、ここにきた」


頭の中で。


しまった……という、焦りと。


やっぱりそうなのか、という少しの嬉しさと。


どうしたらいいんだろう、という不安が一気に去来する。


何もいえず、その視線を見返す。



その沈黙は、哲の笑い声で破られた。


「何焦ってんだよ、バカじゃねぇの。そんなわけねぇだろ?」

「――え?」

その言葉は唐突過ぎて。頭が回らない。

哲は面白そうに肩を震わせて笑いこけている。

「哲?」

その声に椅子から立ち上がると、私の頭を軽く小突いた。

「お前がいるからって、わざわざここまでこねぇよ。美咲をからかうのって、ホントやめらんねぇ」


――なっ、なんだとっ!?


やっと哲の言葉が脳内消化されて、頭に血が上る。

「あんた、そうやって人をからかうのやめなさいよねっ!」

「やーだねー、面白いから。さーって、珈琲でも飲むかなぁ」

ケラケラ笑ってドアを開く哲に、

「私のも!」

叫ぶ。

哲はまだ笑いをおさめないまま、はいはいと頷いて部屋を出て行った。


途端、静まり返る企画室。

「……」

頭を抱えて机に突っ伏す。


聞いちゃったよ、無意識に。

飲み会の時川島に言われた、哲が異動希望だした話。

理由を哲に聞くのは卑怯だとか思ってたのに、ホント、普通に聞いちゃった。

がっくりと肩を落とす。


どっちだろう。ホントはどっちなんだろう。

今のは、からかわれただけ? 

それとも、ホントに私がいるからここにきた?

わかんない……わかんないぞ、哲!


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