15
「ふぁぁぁっ」
エレベータホールで、止められない欠伸が思わず口から漏れる。
あー、眠い。
まだ朝早くて、周りに誰もいないのが救いだなぁ。
昨日あれからどうにも仕事にならなくて、そのまま仮眠室に泊まった私。
早朝に起きて、仕事自体は完全終了。
朝ごはんを買いに、自動ドアが開くのをまってコンビニに行ってきた帰り。
さすがに朝七時じゃぁ、出勤する人まだいないよねぇ。
両手をあげて、身体を伸ばす。
ばきばきと、肩や腰が音を立てる。
電子音を響かせて、エレベーターのドアが開いた。
首を左右に曲げながら中に入って、階数ボタンを押そうと振り返ったら――
目の前に真っ黒いコートと見慣れた後姿。
「え……、課長!?」
肩を押すように私の前に立つと、階数ボタンを押す。
するすると、ドアが閉まって身体を浮遊感が襲う。
私は壁にひっつくように張り付くと、目の前に立つ課長を見上げた。
「なんで、こんな早く――っ」
「昨日、仕事しないで帰ったからな」
――仕事どころじゃないから
昨日の夜の、課長の言葉が脳裏に浮かぶ。
ぶわっ、と朝っぱらから顔が赤くなっていくのが分かって、見えないように俯けた。
なんて答えようかと考えていたら、エレベーターが五階について課長は何も言わず廊下に出る。
その後ろを、慌ててついていく。
考えながらセキュリティーチェックを抜けて歩いていたら、課長がぶはっといきなり笑い出した。
「え、なんですか?」
課長は片手でおなかを押さえて、肩を震わせながら企画室のドアを開ける。
「ちょっと、課長?」
企画室に入った課長の腕を、思わず掴む。
「何が面白いんですかっ」
「ずいぶん、積極的」
「……っ」
にやっと笑って私を見下ろす課長に、パッと腕を放す。
「朝っぱらから、エロ親父っ」
悔しそうに呟くと。
「ん? あぁ、いつもこのほうがいいって昨日言われたからな」
「――っ、言ってないから!」
叫ぶと、また面白そうに笑うから。
「なんで笑うんですかっ」
なんか、悔しいっ
ジロッと睨みあげると、優しい笑顔が待っていた。
「お前が、可愛いからだ」
――!!
一目散に、逃げ出しました。