想いに気付きなさい―1
なんで お前は気付かないんだろう
こんなに ずっと そばにいるのに
――――――――
――第二章 想いに気付きなさい
「へぇ? あの加倉井課長がねぇ」
課長に告白されて一週間目の昼、いつもの屋上の片隅。
様子がおかしいと問い詰められた結果、加奈子に洗いざらいはかされた。
この言いようのないもやもやに、いつもと同じ態度が出来なかったのもある。
けれど、告白したと言うのにちっとも態度の変わらない加倉井課長に、ちょっとイラッと来たのもあったり。
「でもさ、何にも変わらないんだよ。課長ってばさ。もう、いつも通り。うるさいしクソ真面目だし、優しくも何にもならない」
ぶすっと加奈子に訴えると、彼女はパックジュースのストローを口から外してほんわかと笑う。
「なぁに、優しく変わって欲しいの? 課長の事、好きになったのかな?」
「好きにっていうか、……そう言うわけじゃないんだけど――」
でも、あんまり変化ないと冗談だったのかなぁとか思っちゃわない?
加奈子は私の疑問に、首を小さく傾げた。
「でも、あの加倉井課長だからねー。付き合った後も、あまり変化なさそう」
「――確かに」
その言葉に、深く納得。
腕組をしながら頷いていたら、でも……と加奈子が口に手を当てた。
「でも、瑞貴くんは? どうするの?」
「――は? 哲?」
唐突な言葉に、首を傾げる。
「なんで哲?」
「なんでって、幼馴染だし、同じ会社だし。こう、周りには分からない二人の絆的なものが――」
「そんなもんないよ?」
思わず呆気にとられて、間の抜けた声になってしまった。
「そうなの? 私、いつか付き合うものだと思ってたわ」
「そんな予定、私の未来のどこにも書かれてないから。だいたいあんなモテる奴の傍にいるほど、私は強くない」
今までの苦い思い出が、脳裏を廻る。
傍にいるだけで、どれだけの嫉妬と妬みに晒されてきたことか。
そんなの学生時代だけで充分。
加奈子は飲み終えたパックジュースを袋にしまうと、まぁね~と溜息をついた。
「あれだけ外見がいいと、本音まで見抜ける人ってそうそういないわよねぇ」
「ホント、私に対するあの悪魔的態度、見せてやりたいわよ」
まったく、外面もあそこまでいくと賞賛ものだわ。
「じゃあ、課長の事はどうするの?」
解決していない問題に、ずーんっと肩が重くなる。
「まぁ、返事は今するなって言われてるし……、少し悩ませてもらっちゃおうかと……」
「そうね。少しでももててる気分を味合わないと損よね」
にっこりと笑いかける彼女に、
「あんたのその毒舌も、皆に味合わせてやりたいわ」
と、返してみたけれどどこ吹く風。
さっさと立ち上がると、両手をあげて伸びをしている。
つい溜息をつきながら立ち上がる。
加奈子はドアの方に歩き出しながら、私を振り返った。
「じゃ、チャンスがあるなら今のうちね」
クスリと笑って私を見るから、首を傾げながら見返すと彼女は楽しそうに走り出す。
「美咲をいじめるチャンス~!」
「ちょっ、苛めないでよ!」
その時、一体彼女が何を言いたかったのか、私にはちっとも分からなかった。