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「――久我?」


そばで聞こえた声に、両手を顔から離して見上げる。

目線を合わせるように屈んで、私を心配そうに覗き込む課長の姿に頭が真っ白になった。

「――課長……。いつの間にここに……」

「今さっき。中に入ってもお前気付かないから」

珍しく、無表情じゃない……ってそこじゃないか。


「すみません、ちょっと考え事……」

「――何かあったのか?」


伺うような口調に、小さく頭を振る。


「――何があった?」


――なんでこんなに確信めいた口調なんだろ……?


「ホントに何も……って、あの課長?」

頬に触れそうになる課長の手を避けるように、少し椅子を引く。

「――久我」

「なっ、なんですか?」

そのまま、少しずつ椅子をずらして課長から離れていく。

だって、近い――


俯いた視線の先に、課長の足が見える。


小さく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようと両手を膝の上で握り締める。


今は、感情のコントロールが難しい――


「あの、課長……っ」


ガクンッ、と椅子が後ろに下がる。

そのまま横の壁に、椅子の背もたれが当たってくぐもった音を立てた。


――な、何が……


いきなりの課長の行動に、驚くしか術はなく。

思わず椅子の座面の端を、両手で掴む。


「――久我」


両腕で押さえられてる椅子が、軋んだ音をたてていて。


椅子と腕に閉じ込められたこの状態で、私は俯くしかない。

課長がこっちを見ているのが分かるけれど、見上げるほど、心臓は強くない。


「何か、あるなら、言ってくれ」


何か?


なんで? だって、父親のことは知らないはず。

課長の前で、おかしな行動を取った記憶もない。


「ホント、何も……」


沈黙が、辛い。


小さく、溜息をつく声が上から聞こえてくる。



俯いた視線の先に、自分の手。

課長のスーツの裾。



手を伸ばせば、縋りつけるけれど





――誰かに聞いて欲しい

慰めて欲しい

同情して欲しい


でも――


包んでくれる、人はいない。

自分で、求めようとしないから。




怖いんだよ……、またいなくなるかもしれないんだもの――



だから



一人で、押し込めて、殺していくしかない

この気持ちは――




頑な、て、自分でも思う。

可愛くない


でも。


無くす辛さに比べたら――


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