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サブタイトルを それは台風 から、感情 に変更してます。

すみません!

「美咲ー、まだかえんねぇの?」

パソコンの電源を落としたであろう音が、哲のデスクから聞こえてくる。

私は画面を睨みながら、頷く。

「うーん、これ終わらせないと無理だわ。まったく、真崎さんが急に打ち合わせなんていれるから――」


ぶつぶつと文句を言いながら、手はデータを探して書類を捲っていく。


「どんくらいで終わりそうなんだよ、待ってっから」

机の横の鞄を取ろうとしていた哲が、そのまま手を止めて私の横に立った。

画面から視線をはずして、顔を上げる。

「いいよ、さき帰ってて。時間かかりそうだし、私が気になるから」


既に斉藤さんと間宮さんは帰宅済みで、課長は外。

先に帰れば私が一人になるから、気にしてくれてるのは嬉しいんだけど――


「でも、結構な時間だぜ?」

その言葉に、時計に目をやると時計の針は十時を指していて。


「大丈夫よ、あまり遅くなるようなら仮眠室に泊まるから。このデータの提出、明日までなのよね」

手に持っていたデータを机にぺらっと広げる。

中腰になってそれを見ると、諦めたかのように腰に手を置いた。

「うーん、まぁ仕方ないか。気をつけろよ?」

「はいはい、なんだか心配性な哲くんですね。おねーちゃんは大丈夫ですよ」

心配そうな哲の腕を、ぽんぽんと叩く。


「――美咲」


「ん?」


腕に触れていた手を、哲に掴まれる。


「どうしたの?」


座ったままだから哲を見上げると首が、くんっとひきつる。

ちっ、背高いとこっちが苦労するぜ。


けど哲は何も言わず掴んだ手を離さないまま、じっと私を見下ろしていて。

「何かあったの? 哲」

「――ちっともお前……」

途中で言葉を切って、視線をずらす。

「は?」


はてなマークをたくさん浮かべながら首を傾げると、わざとらしく哲は溜息をついた。

私の手を離して、自分のデスクに戻る。

「なんでもねぇよ、じゃーあんま遅くなるなよ」

コートを着て鞄を持つと、ぽんぽんと私の頭を軽く叩いて帰っていった。




姿の消えたドアを、思わず見つめる。


ちっとも何?

途中で会話を切らないで欲しいわ。その後が気になる。


釈然としないまま、手元のデータに目を落とす。


進んでいない、仕事。

真崎の所為だっていったのは、ホントは嘘。

忘れようとしても浮かび上がる、家族の時間。


高校を卒業して、大学に入って。

生きていくことで、精一杯だった。


大学の費用は親から出してもらえたけど、なるべくそこから使わずにバイトと奨学金で生活費までまかなってきた。

忙しくて、ほとんど考える暇なかったし。

大学は哲と違うとこに行ったから、昔を思い出すこともなかった。

だから、父親のことなんて忘れていられたのに。


「何で職場で会うかな――」

仕事上の取引相手だと、無視するわけにも削除するわけにもいかない。

マーケティングってことは、発売後も付き合いがあるわけだし。

まぁ、亨くんが担当って言ってたから、こっちに来るのは彼がメインなんだろうけれど。



目じりを下げた、優しい微笑み。


昔と変わらない、父親の姿。


懐かしさよりも――


心の奥底からどす黒い何かが湧き上がってくる。



くらりと眩暈がして、思わず両手で顔を覆う。

そのまま机に両肘を突いた。



ワタシヲステタクセニ


シアワセニ クラシテル――



「――っふ……」


涙が、出ない。

出ないけれど、嗚咽だけは喉から搾り出される。


辛いって、誰がわかってくれるんだろう。


――


慰めて欲しい

同情して欲しい


そう思っていても。

誰にも気持ちを告げていないのだから、分かってくれる人がいるわけがない。

だから、それを求めるのはただの我侭――


「寒い……な」


包んでくれる、人はいない。

自分で、求めようとしないから。




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