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「水沢さんておいくつなんですか?」
諦めて恐縮しながら哲の隣に座る水沢さんに、にっこりと笑いながら話しかける。
「あ、二十六歳です」
「哲と同い年だ、じゃぁ私の一つ下ですね」
「えっ?」
水沢さんの小さな叫び声。
叫ぶところか、ここは。
哲は水沢さんの驚きを察したように、肩が細かく震えていて。
「その驚きは何でせう」
にっこり表情を顔に貼り付けながら、有無を言わさない雰囲気で迫ってみる。
水沢さんは、もごもごと口ごもりながら俯けた顔で視線だけこっちに向けた。
「いやその……、私より年下の方かと思っていたもので」
「美咲、子供だから!」
それを言った途端、哲の頭を平手で叩く。
そしてそのままその手で、水沢さんの頭を撫でる。
「かわいいっ! その表情、犯罪ものだわ」
「は?」
目をぱちくりしながら、水沢さんフリーズ。
「ありがとうね、若く見てくれて。おねーさん、癒されるわぁ。哲も見習え」
「お前が見習え」
「おいおい、久我。取引先の社員、怖がらせるなよ。久我部長も、何か言ってやって」
「はは、元気でいいじゃないですか。水沢、失礼なことするんじゃないぞ」
目じりを下げて微笑むその姿に、視線をずらして斉藤さんを見る。
「怖がらせてるつもりはないですよ、私」
まぁ、でも――
そのまま話を切り上げるように、水沢さんの方に視線を向ける。
「男性に可愛いは、いい言葉じゃなかったですね。ごめんなさい」
軽く頭を下げると、水沢さんはいやいやと両手を振った。
「久我さんは見た目はお若いと思いましたが、やはり年上の方ですね。姉みたいです」
「お姉さんがいらっしゃるんですか?」
向こうのテーブルも違う話しに入ったのか、こっちには向いていない。
「えぇ、三つ上に姉が」
その言葉に、内心納得。
ポンッと軽く手を叩いて頷く。
「可愛いと言うか、弟って雰囲気なのかも。どうも哲がいるから、その雰囲気に姉をやりたくなってしまうんだ」
「俺がいつ弟になった」
苦笑いしながら珈琲を口に運ぶ哲を、水沢さんが見る。
「あれ? お二人ってご家族なんですか?」
同じくカフェオレを飲んでいた私は、片手を振って否定する。
「お隣さんだったのよ、今は違うけど」
「幼馴染で同じ職場にいらっしゃるんですね」
「哲が追いかけてきて」
「こらまて、誰が追いかけてきた」
紙コップを手に持ちながらにらみ合う私たちを、微笑ましくみる水沢さん。
「なんていうか、ホント美咲さんって感じですね。久我さんというより」
――
思わず哲と二人で水沢さんを見る。