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後から来た課長と哲と一緒に、エレベーターに乗り込む。
へらへらと笑う哲、無表情な課長、私。
一体どんなメンツなんだろ。
ラウンジに入った時、斉藤さんがこっち見てちょっと首を傾げてたから。
変な感じだったのかな。
ラウンジは六人掛けと四人掛けのテーブルが置かれていて。
先に来ていた五人は、六人掛けのテーブルに座っていた。
私達が入ってきたのを見て、全員が立ち上がる。
課長はスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出すと、真崎の横に立った。
「こちらが今回マーケティングをお願いした、担当の水沢さんと上司の久我さん。美咲ちゃんとややこしいから、久我部長って呼ばせてもらうことにしたんだ」
一瞬課長は真崎のほうに視線を走らすと、久我部長と水沢さんと名刺交換をする。
「企画課の加倉井と申します、よろしくお願いします」
「久我と申します、よろしくお願いします」
「水沢と申します、どうぞよろしくお願いします」
私は相手先の二人に軽く会釈をして、隣の四人掛けのテーブルに座る。
なぜか哲も課長に呼ばれて、名刺交換をしていた。
「瑞貴……くん、ですか」
久我部長の声が、聞こえる。
哲はにっこりと笑って、名刺を差し出した。
「はい、珍しい苗字だとよく言われます。瑞貴 哲弘と申します」
名刺交換が終わると、哲は私のいるテーブルの席に座った。
「美咲ー、じゃんけん」
「んー、よし。じゃーんけーん」
ぽいっ、の声と同時に哲の唸り声。
ちょきを出したままの哲に、ぐーの形のままの右手をちらつかせる。
「言いだしっぺがまけてやんの、私カフェオレねー、あったかいの」
ニヤニヤしながら椅子を立つ哲を見上げると、隣のテーブルにいた水沢さんが笑いながらこっちをみた。
「楽しそうですね」
「――水沢さん、カフェオレはお好き?」
水沢さんの言葉に答えず、聞き返す。
少し面食らったように目を見開いたけれど、
「え? えと、はい、お好きです」
と呟くから。
思わず哲と目を合わせて噴出す。
「哲ー、カフェオレ追加ー」
「へーい、かしこまりー」
そのまま壁際の自動販売機へと歩いていく。
そこに、久我部長の小さな咳払いが響く。
「……あっ」
水沢さんはそれで目が覚めたように、がたがたと立ち上がった。
「すみません、思わず答えちゃいましたっ。あ、俺、じゃない私が……」
慌てて哲を追いかけようとする水沢さんの、スーツの裾を軽く掴んで引き止める。
「いいですよ全然。あれは企画課の下っ端なのでお気になさらず」
「いや、でもその――」
掴まれた裾と私を交互に見ながら、どうしようというような困惑した表情。
「あれって失礼な。水沢さん、こちらこそ“これ”が強引ですみません。ほとほと手を焼いてるんですよ」
丁度紙コップを四つ手にして戻ってきた哲が、水沢さんに笑いかける。
「今飲み終わったばかりだというのに強引に飲んでいただくんですから、気にしないでください。どうぞどうぞ、よろしければこっちでいかがですか?」
「おぉ、さすが元営業。事を運ぶのうまいなぁ」
哲は紙コップ三つを私の前において、そのまま課長に残りの一つを手渡す。
「若者は若者同士って? お見合いじゃねーぞー」
斉藤さんが隣のテーブルで笑ってる。
哲は斉藤さんの言葉に笑いながらさっさと水沢さんの鞄を手に取ると、自分の席の横に置いた。