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企画室に戻ると、課長だけがそこにいた。
「あれ? まだ斉藤さんと間宮さん帰ってきてないんですか」
哲が首を傾げながら、私の横に立つ。
課長は頷きながら、椅子から立ち上がった。
「なんだかマーケティング会社の社員と話しているから、遅くなるって連絡来た。俺の企画も担当なんだって? いつの間にか真崎が広報から手を回してたみたいだな」
「課長、知らなかったんですか? 私もさっき聞いたばかりですけど」
そのまま机に持っていたファイルを置くと、課長が歩き出す。
「一応挨拶をしに行ってくるが、お前達はどうする? この分じゃ、三十分は会議始まらないな」
「俺はお供しますよ。美咲はどうする?」
その言葉に、哲を見る。
正直、行きたくない。
かなり、行きたくない。
でも、久我部長が何を話すのか、まさかと思うが自分とのことを少しでも匂わせるんじゃないか、把握しておきたい複雑な感情が頭を占める。
「……行きます、でも打ちあわせで頭がこんがらがってるので、変かもしれないですけどいいですか?」
既に哲の横でドアを開けている課長に、一応確認してみる。
課長は少し眉を顰めて、
「別に構わない、好きにしろ」
と言うと、哲に一瞬視線を向けて廊下へと歩いていく。
お財布を持って廊下に出ると、課長と哲がそこに立っていて。
「あれ?いかないんですか?」
首を傾げて課長を見上げると、その後ろからひょっこりと顔を出した哲が手を振る。
「美咲、先に行ってエレベーター呼んでて。ちょっと仕事の話」
「あ、うん」
頷いて、そこを後にする。
廊下をゆっくりと歩きながら、重くなっていく気持ちを何とか浮上させる。
へたに企画室の人と仲良くなって欲しくない。
あの人を、私の領域に入らせない。
赤の他人を、私の世界に入らせてたまるか――
そんなことをぶつぶつ呟きながら、エレベーターホールに向かう。
すでに頭の中はそんなことでいっぱいだったから、後ろで課長と哲が何を話してるかなんて一つも考えなかった。