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課長の、心臓の音が聞こえる。

多分、普段より早い。

この人でも、緊張なんてするんだ――

そんなことを考えながら、それでも自分の頭も沸騰直前。

でも、課長のその鼓動が、私に実感させる。

課長の言葉が、本当だということを。


だいたい課長は、冗談を言わない。

イライラするほど、仕事以外では融通が利かない――

要するに、嘘をつかない。


「え?」

おもわず、疑問形な声が出る。

「……えと、私のボディーブローで、頭がおかしくなっちゃったんじゃ……」

「腹を殴って、頭がおかしくなる奴がいたらお目にかかりたい」

――ソウデスネ……

「別に今言わなくてもよかったんだが、なんだか昼に誤解を与えてしまったような気がしたから」

「――ある意味、誤解でもなんでもないような」

「まぁな」

――え、と。

なにをどう言ったらいいのか、頭が働かない……。

しばらく硬直したようにそのままの体勢でいたけれど、課長がゆっくりとその手を離した。

そして企画室のドアを、手を伸ばして開ける。

「返事はまだいい。突然言われても、俺をそういう風に見れないだろう? それで断られても、納得できないからな」

そのまま私の身体をくるっと反対に向けると、背中を軽く押した。

その勢いで私は歩き出すと、何も言わずに企画室から出る。

「……」

振り向けば課長が見ているのが、気配で分かる。

けど、なんとなく振り向けなかった。

そのうち、パタンとドアの閉まる音が聞こえた。


――え、と……

考えなくちゃいけない事だって分かってるんだけど、ぜんぜん何もまとまらず。

そのままセキュリティーチェックを通って、仮眠室に入る。

出て行ったときと同じ、誰もいない休憩室。

そこを突っ切って、荷物を置いてある方の部屋に入る。

そのままの勢いで、ベッドにもぐりこんで枕に顔を押し付けた。


――えーと、課長が……課長が……

「課長が、私を、好き……?」

口に出した途端、一気に顔に血が上る。

心臓が、ばくばくと鼓動を早める。

「え、わかんない。何で、私を?」

冷たい枕に顔を押し付けて冷静になってみようとするけれど、全然上手くいかない。


男並みを理由にこの部署に来てからしか、課長と接点はない。

しかも、拳をお見舞いしたのも今回が初めてじゃない。

どんな理由で私?

拳で愛に目覚めた? ありえないありえない。

「えと……え……っと……」

だめだわからん!



そのまま布団を頭からかぶると懸命に羊を数えて眠気を待ったけれど、一向に訪れないまま翌朝を迎えてしまった―――



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