感情―1
なんで この人が ここにいるの?
心の中で、削除したはずの
アカノタニン
私のテリトリーは
侵害させない――
この感情は
誰にも 知られたくない――
だから、私は
一人で この感情を 殺していく――
――第6章 感情
{美咲ちゃん、悪いんだけど午後は広報に来てくれないかな?}
いつもどおり企画室で仕事していたら、真崎から内線が来た。
午後……
「えーと、急ぎですか? 会議入ってるんですけど」
月曜日の午後は、定期的に行われる会議が入ってる。
先に言っておいてくれればどうにかするけれど、さすがに今日の今日は――
{無理かな? この後お世話になる取引先が来るんだよねぇ}
「うーん……、ちょっと待っててください」
内線を保留にした途端、課長の声が飛ぶ。
「どうした? 久我」
立つべきかと思ったけれど、背を反らして斉藤さん越しに課長を見る。
「すみません、真崎さんなんですけど。午後は広報部に来て欲しいって言われて……」
「あぁ、いいぞ。そっち優先で。お前の報告資料だけ置いていけばいい」
「はい」
課長の言葉に返事をして、真崎さんに行くことを伝える。
電話を置くと、斉藤さんが椅子に背中をもたせて私を見た。
「随分と急な話しだなぁ。真崎も無理を言う」
「取引先って、どこなんだろ。ホント真崎先輩って美咲をいいように使ってるよなぁ」
「久我さん、言われやすいのかもね」
「久我が、隙ばかり見せてるからだろ」
上記会話に名前を当てはめますと、斉藤さん→哲→間宮さん→課長
「――あなた方、私を怒らせてどうしようと? てか、二番目と四番目?」
視線は向けずに目を細めながらドスを聞かせると、いっせいに口を噤んで手元に視線を移す。
内心、ふんっと息巻いてキーボードをこれでもかと叩き潰すように、資料を仕上げていった。
昼を加奈子と食べて、そのまま広報部へと足を向ける。
営業部のある右側じゃなく、エレベーターを降りて左側。
ガラス張りのドアを開けて奥へと進む。
何度も来ているから慣れた社員の人たちと、挨拶を交わしながら。
真崎が使っている小会議室もガラス張りだから、ばっちり中が見える。
いつもならファイルとか置いてあるのに、今日は何も置いていない。
視線をずらすと、既に取引先が来ているらしく二人座っている姿が見える。
気持ち早足になりながら、会議室のドアノブを握った。
「――」
開けようとした手が、動きを止める。
取引先の人と、目が合った。
奥に座る、五十代の男性。
向こうも、目を見開いて私を見る。
私も、信じられないものを見たように、目を見開く。