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「これ、どんだけ合同なんですか」
「俺に言うな、俺も知らなかった」
「広報部だけかと思ったな」
「くっついても営業くらいかと思ってたよ」
「てか、別に俺たちいなくてもいいんじゃないですか?」
隅の方でかたまっている企画課面々から視線をはずし、座敷を見渡す。
真ん中に今日の主役の真崎がいる広報部。
その横に営業部。って言っても、さすがというか全員は揃わないらしい。
その反対側に、なぜか総務と経理。あと懐かしの商品管理課。
いないのは、秘書課くらいなのかな。
斉藤さんは面倒くさそうに壁にもたれると、そうもいかないだろ……と呟く。
「あいつ企画課でも仕事してんだ、一応出ないとまずいだろ」
広報部の真ん中で、落ち着いて飲んでいる真崎を横目で見ながら斉藤さんは溜息をついた。
「今日さ。久我が広報部にいった後、いきなり電話掛けてきて「歓迎会に出席ね、強制で」って言うだけいって切りやがって」
「あー、それであんなに企画室の雰囲気悪かったわけですか」
その言葉に、間宮さんが苦笑いで頷く。
「だいたい来てから二週間もたってるのに、いまさらって感じですよ」
哲がコースで運ばれてきたサラダを小皿にとって、口に放り込む。
「確かにね。まぁ、忙しいんだろうけど」
皆で溜息をついて視線を落としていると、いつの間にか真ん中にいたはずの真崎がそばに来た。
「なんで企画課はそんなに元気がないのかなぁ? せっかくの飲みなのに、なんか陰気よここ」
グラスをテーブルにおいてにっこりと笑う真崎に、企画課全員でじとーっと視線を送る。
「陰気に感じんなら、それは全てお前のせいだ」
「斉藤はホントに口が悪いよねぇ、まぁ慣れてるけどさ。仕方ないじゃん、気付いたら人数に入ってたし、企画課の参加を楽しみにしてる人結構多いんだし」
「誰だよ」
あー、誰って言うか……
後ろから誰かが近づいてくる気配に、真崎の言葉の続きが想像できて内心溜息をついた。
「誰って結構皆だけど、とくに一階の……」
真崎がそこまで言った時、あまったるい声が掛けられる。
見なくても分かるけど、無視するわけにはいくまい。
「ちょっと、皆さん。飲みなのにお仕事の話ですか?」
真崎の後ろから、グラスを持った女性が二人が中腰になりながら。
案の定だよ――
真崎は柿沼の方を見上げて、にこりと微笑みかける。
「これから俺がお世話になるから、挨拶していただけだよ」
――俺!?
聞いたことのない真崎の言葉に、一瞬目を丸くする。
真崎との打ち合わせは基本的に彼が使っている小会議室でやっていたし、考えてみればその会議室と企画室以外で、会ったことがなかった。
他の人には、ちゃんと年相応に話してるんだなー。
そんなことを考えながら話を聞き流していたら、真崎の横を陣取った柿沼ともう一人の女性社員……確か宮野さんだったかな……は、いつの間にか綺麗に私のいるスペースを狭めてくる。
苦笑い気味に少しずつ隣の間宮さんによりながら、場所を明け渡す。
「企画課の皆さんとは、なかなか同じ会社にいてもお会いすることないんですから。ね、少しは交流しましょうよ」
微笑む柿沼は、本性を知らなければ年下とはいえとても綺麗なお姉さん。
薄いシャンパンゴールドのマニュキュアに、細身の腕時計。
つるつるの綺麗なお肌は、さすがに若いというかおしゃれに気をつけているというか。
目立たないほどの軽い茶色に染められた髪の毛は、くるりと胸の辺りで揺れている。