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――これで仕事は出来るんだから、ホント不思議だよなぁ……
三階の営業部のエレベーターを挟んで隣、広報部に企画を詰めにやってきた私。
仕事中の真崎の手があくまで、小会議室で待っていたりするのですが。
てか凄いなぁ……
くるりと自分のいる場所を見渡す。
会議室という名のガラス張り部屋。
デスクのない真崎さんは、ここを使っているらしく。
さすがに実績を持っている方は違う、とでもいいましょうか。
まぁ、それだけじゃないんだろうけど――
ガラスドアの向こう側では真崎が、第一広報部の社員を指示しながら仕事を進めていく。
防音されているこの部屋では、声は聞こえてこないけれど。
それでも、社員が指示に頷いてスムーズにデスクに戻っていくのをみると、的確に指示を出しているんだろう。
実際私の企画のために来たというよりは、たまたま広報部の課長が海外出張の入っている三ヶ月間、代理としてこっちに出張してきたみたい。
その間、私の企画を兼任で担当する……と。
どこにそんな時間があるのやら……
携帯をかけながら、指と目線で指示を出す真崎は、見ているだけなら格好いい。
仕事のできる男って感じ。
真崎がこっちに来て既に二週間。
打ち合わせも結構しているけれど、やっぱりそつがない。
仕事になると短い言葉で指示をし、たまに遠回りな言葉でこっちの考えを引き出す。
課長が無愛想で生真面目な上司なら、真崎は華やかで明るい上司ってとこかな。
これでなぁ……
ひと段落着いたのか携帯をスーツの胸ポケットに入れると、ガラス戸を開けて入ってくる。
「さぁ、美咲ちゃん! お待たせしました♪」
これさえなければなぁ……
企画書を手に持ったまま、溜息をつく。
真崎はそのまま向かいの椅子に腰をおろすと、机においておいた企画書を手に取る。
「企画室の様子はどう? 彼らの顔見たいのになぁ」
「――それ聞きますか?」
「まぁ、あんな嫉妬深い人たちばっかじゃねぇ」
「――それ、とりあえず他で言わないでください。私、この会社で生きていけなくなるもんで」
ふぅん……と、企画書に目を落としたまま呟く。
「人気者なんだってね、課長と瑞貴くんて。さっきラウンジに行ったら、なんか根掘り葉掘り聞かれたよ」
「え、誰にですか?」
ノートパソコンを立ち上げながら、顔を上げる。
「確か、総務の子だったかなぁ。なんか巻き髪の派手目の。名前言ってた気がするけど忘れちゃった」
絶対、柿沼だ。
溜息をつきながら、視線をパソコンに戻す。
「あの、ホントで企画室の事は他で言わないでくださいね。あと、私にべたべたするのもナシで」
「じゃぁ、企画室でならいいの?」
「それもナシで」
「じゃぁ、どこで遊べばいいのさ」
「遊ぶな」
一言で切り捨てると、ハイハイと軽く真崎は笑って企画書を机に広げた。
「さてと。企画書変更してくれたんだね、ざっと見これでいいと思うよ。今日中にもう一度読んで連絡する。で、年代と性別、あと展開地域の相談があるんだけど……」
いきなり仕事にスイッチが切り替わり、声音まで変わるそれに意識を仕事に向ける。
どこまでが冗談で、どこまでがホンキなのか昔からこの人は分からない。
けれど、仕事ではちゃんとついていきたい。
広報部なのに、企画まで手掛けるこの人の下に付けることは、仕事をしていく上でかなり勉強になりそうだから。
真崎の言う変更箇所をエクセルで入力しなおしながら、ぎゅっと口を引き結んだ。




