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階段の一段目に二人で座る真崎と加奈子は、内容だけ聞かなければ談笑中。
その実、二度と戻ってこなくてよかったのにとか会長室に篭ってでてくるなとか、まぁ聞いているほうは呆気にとられてしまうような感じ。
その上の三段目に哲と並んで座りながら、食べ終えたお弁当を傍らのランチバッグに入れた。
「なんちゅーかさ。佐和先輩に対抗できる人、初めて見た俺」
おんなじように二人のやり取りを見ながら、哲はある意味感嘆の声を漏らす。
「私もそう。真崎さん以外、見たことない」
「これって、あれ? 実は好きあっててーみたいな……」
「ばっ、哲!」
慌てて哲の口を塞いでみたけれど、間に合わず。
長い腕が伸びてきて、力任せに私の身体を引っ張り寄せる。
「あっわっっ」
突然の事に対応できず、慌てて目の前に現れたものにしがみつく。
あまり衝撃はなかったものの、びっくりの方が勝って思わず目を瞑った。
「瑞貴、僕は美咲ちゃんが大好きなんだよ」
その言葉と同じ振動が、しがみついたものから流れてきて身体が硬直する。
恐る恐る目をあければ、スーツの襟元にしがみついている自分の両手。
その上に、見たくない甘ったるい顔。
膝の上に私が覆いかぶさるようになっているこの体勢に、慌てて離れようとしてもがっちり捕まえられた身体は動かない。
「ちょっ、真崎さんっ。美咲、離してください」
哲が立ち上がって私に手を伸ばそうとした時、再び私の身体が宙に浮く。
今度は何っ!?
思わず見上げると、私を小脇に抱えるように持ち上げた課長の姿。
「真崎、いい加減にしろ。お前もいちいち突っかかるな、だから馬鹿をみる」
途中まで真崎への注意だったのに、なぜか矛先が自分に向かってきて手足をばたつかせる。
「馬鹿ってなんですか、馬鹿って! 課長も、離してくださいっ!」
「黙れ。瑞貴、お前も一緒にいるなら見張っておけ。この馬鹿二人」
「課長こそ、真崎さん見張っておけばいいじゃないですか」
――なんだ、これ……
持ち上げられたまま動きを止めて、加奈子と目を見合わせる。
えぇと、なんだかよく分からないけど……
甘ったるい笑顔と、不機嫌そうな無表情と、敵意むき出し顔の男が三人、なんかにらみ合ってます。
なんなんでしょうか、この状況。
「……あの」
課長を見上げながら声を掛けると、何もいわずに私を地面に降ろす。
けれど腕を捕まれて自分の後ろに隠すように追いやられてしまって、身動きが一つも取れない。
加奈子に助けを求めようとしたら、彼女は微笑みながら三人を傍観してる。
たぶん、内心とってもわくわくしているようにミエマス……
助けがない……
加奈子の表情を見ながら、がっくりと肩を落とす。
腕が離れれば、この状況放っておいてさっさと逃げるのにっ!
とりあえず腕を引っ張ってみたけれど、ちっとも外れず。
仕方なく引き剥がそうと課長の手首を掴もうとした時――
いきなり真崎が、ポンッと右の拳を左の手のひらに叩きつけて笑った。
――冷ややかな笑みで
「あぁ……なるほどね、課長も瑞貴も美咲ちゃんのことが好きなんだ?」
課長の手首を掴もうとしたまま、私の動きが固まる。
――地雷ふんだぁぁぁっ