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「聞いたわよ、美咲。真崎先輩、こっちに戻ってきたのね。私も知らなかったわ」
昼休憩。少し早めに企画室から出て、なんとか真崎を巻いて屋上にやってきた。
そこには加奈子と、哲の姿。
まるで天国を見るような眼差しに、加奈子が少し引きつった表情を見せていた。
「そうなんだよ加奈子~、私は今だけ企画室から出たい」
「気持ちは分かる。ずっと企画室にいるの?」
「ううん、通常は第一広報部で仕事するみたいなんだけど。……毎日じゃないとは思うけど、がっつり会わなきゃいけないのよ」
抱きついた私の頭をなでなでする加奈子の横で、面白くなさそうに哲がおにぎりを食べている。
「ていうか、なんなんだよ。あの人」
「――ヤキモチ?」
加奈子がにこやかに哲を見る。
哲は、少し眉を顰めて小さく佐和先輩……と溜息をついた。
「ばればれだからいいですけどね。ヤキモチですよ、何か悪いか」
敬語のわりに、最後はふてくされた言葉遣いについ加奈子と顔を見合わせて笑う。
「真崎さんてね、斉藤さんや間宮さんと動機なんだけど――
確か一年半前くらい。企画室に異動して半年も経っていない頃、今回と同じ様に期間限定で異動してきたのが、広報部所属の真崎 昴だった。
あの性格でも仕事は優秀な方で、その時は斉藤さんの企画を準備段階から一緒に動くために異動してきたわけで。
通常で行けば異端な方で、別に異動する必要はないんだけれど、真崎が目をつけて最初から関っていったものはかなりの確立でヒット商品になるというよく分からないジンクスが既に出来ていて、特別な扱いをされていた。
そのまま斉藤さんの企画を成功させると、東京本社ではなく神戸支社の第二広報部へと異動したはずなんだけど。
まぁ、簡単に説明するとこんな人なんだけどね」
一気に記憶を手繰りながら哲に説明する。
「なんであんなに美咲に馴れ馴れしいんだよ。いきなり抱きつくし」
「あぁ……、簡単な話よ。私がちびっこくてはむかうから、楽しまれてんのよね。」
溜息混じりに肩を落とすと、加奈子は据わった膝の上にお弁当を広げながら、あぁと呟く。
「反応しなきゃいいのにって思うんだけど、美咲の性格、把握してるわよねぇ真崎さんて。確実に反応してはむかうように弄ってたもの」
「私もね、分かってはいるんだけど。でも、どうしても殴りたくなるというか逃げたくなるというか――」
「それだけで、あんなに構うのか?」
「それだけでって……言うか、なんていうの? 好きの種類が違うわけよ。――人というよりは、犬? 猫?」
哲の言葉に答えを返しながら、首をかしげたその瞬間だった。