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各階のフロアはエレベーターと階段によって、左右に分かれている。
六階は会長室を含めて、重役の個室や会議室。それに付随する、秘書室。
四階は商品管理・資料室。
三階は営業。
二階はショールームも兼ねた商談フロア。
一階に、総務・経理などの事務課が入っている。
そして私のいる五階はというと。
階段から廊下を右に折れると、企画課の管轄するスペース。
それを左に折れると……
「ふはぁぁ、気持ちよかったー」
ドライヤーで乾かした髪を手で撫ぜながら、ソファに座る。
既に時計は深夜二時を指していて、窓の向こうは暗闇に沈んでいる。
そう五階フロアの左側は、シャワーのついた仮眠室が男女各一部屋設置されている。
入るとソファーが置いてある休憩室と、二人部屋と簡易シャワーがそれぞれ三つ。
自動販売機まであって、便利なことこの上ない。
しかも使う人なんて限られているから、混むことないし。
だいたい、私たち企画課か秘書課。
かといって秘書課の人達もそんなに使わないから、私が一人で使っている事が多い。
まぁ、そうそう泊まるわけじゃないけど、忙しい時期はね。
期末になると総務とか経理とかの人も使うけど、そこまでじゃないし。
男の人の方は企画課以外は秘書課長一人くらいしかいないけど、その四人で使う事が多いから、一人で気楽に使えることなんて少ないんじゃないかな。
例え女性用の仮眠室が誰も使っていなくて空いていても、IDカードでチェックするから男性社員が使うことは出来ないし。
今日も誰もいない仮眠室は、自動販売機のモーター音だけ聞こえてくる。
あ~、極楽だ~。
自動販売機で買ったアイスティの蓋を開けながら、ソファに深くもたれかける。
十時過ぎまで本日二回目の会議が押して、その後、明日の段取りをつけながら仕事を進めて。
十二時まで残っていたのは、三人。
間宮さんは明日の方が大変らしく会議が終わって早々に、斉藤さんは終電に間に合うように帰っていった。
先輩二人、さすが企画課に五年以上いると思う。
仕事の段取りが早くて、さくさくと終わらせる。
私と哲は半人前で、こうやって遅くなることが多い。
課長は別枠。仕事が多すぎて時間が足りないんだろうな。
それでも表情も変えずに仕事をこなす姿を、尊敬はしてる。
――あの口の悪ささえなければね。
真実は人を傷つけるって言葉、脳内にインプットして欲しいくらいだわ。
一気に飲み干したアイスティのペットボトルをゴミ箱に捨てて、ポケットから携帯を取り出す。
「――ん? ありゃ」
手のひらにあったのは、会社から支給されている携帯。
あ~、またやっちゃったよ。
同じメーカーで同じシルバーの携帯だから、たまに間違えて持ってきてしまう。
肩を落として溜息をつくと、荷物を置いた部屋にカーディガンを取りに行く。
家に帰っちゃってたら諦めるけど、廊下を真っ直ぐ行けば企画室。
とってこよう。
カーディガンを羽織ってIDを手にとると、薄暗い廊下に足を踏み出した。