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いつの間にか寝ていたらしく、腕の痺れで目が覚めた。
うっすらと霞んでいる視界を不思議に思いつつ、上に投げ出していた右手で目をこする。
寝ている間に、泣いていたらしかった。
「目が、ひりひりする……」
こすってしまったのが、いけなかったらしい。
涙ではり付いていたまぶたが、小さな痛みを伝える。
嫌なこと、思い出した。
忘れてたのに。
目、洗いたいな。確か、二階にも洗面所があったはず。
ベッドから上半身を起こすと、少し捲れているカーテンから夜空が覗いた。
小さく溜息をついて、カーテンを直す。
大丈夫だと思ったんだけどなぁ、ここに来ても。
親を切り捨てたあの時に、全て終わったと思っていたんだけど。
そう思ってるってこと自体、終わってなかったんだろうな。
――――――
だからね、美咲ちゃんにどうしても会いたかったの
――――――
おばさんの言葉。
おばさんは、たぶん私が両親に言ったことを知ってる。
母親と仲がよかったから。
私の知らない所で、離婚をする前から母親の都合のいい話を聞いていたはず。
おばさんは私に何も言わなかったけれど、高校生の頃、いつも海外に行くとお土産を山のように買って来てくれた。
きっと、私のことを思ってだったんだろうな。
今回、海外に行ってしまうことになって。
この家が哲のうちじゃなくなったら、私はこの場所に来ることはきっと一生ない。
だから。
区切りのために。
最後だから。
もう一度、カーテンを捲る。
夜に沈む、風景。
二階、南の部屋の電気だけがついていて。
窓を開けて、枠に肘をつく。
頬杖をしながら、小さく息を吐いた。
ほわっと、白い息が消えていく。
あの部屋、私の部屋だった。
よく、夜中にベランダに出て空を見てた。
たまに哲に見つかって、夜中の散歩に行ったり。
「ははっ、哲のことばっかりだ」
「あ? 俺?」
突然かけられた声に、少し驚きながら横を見ると。
「哲……」
隣の部屋の窓から、哲の姿。
そこにあるべランダに、ダウンジャケットを羽織りながら出てきた。




