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いくつかの路地を曲がって、目的の場所に着く。


哲の家。


周りと比べると少し大きなその家は、おじさんの海外赴任と引き換えにある。

子供の頃、哲は同年代の子にやっかまれていた。

顔がよくて家が大きいから、同年代の子っていうか性別男限定で。

女の子はきゃーきゃー言ってただけだけど。


どっちがいいんだろう。

たまの長期休暇にしか帰ってこられないけれどその稼ぎで大きい家を購入できるお父さんと、家にいるけれど普通の家のお父さん。


あの頃の哲に聞けば、後者を選択するだろう。


家だって、ずっと母子家庭のようになってしまうおばさんと哲に大きくて素敵な家をプレゼントしたかったって、小さい頃におじさんに聞いたことがある。

それ以上に、心配でセキュリティーを強化したらこんなんなっちゃった、と茶目っ気たっぷりで笑ってた。




車をガレージに入れてエンジンを切る。

そのまま門をくぐり中に入っていくと、玄関でおばさんが待っていた。


「美咲ちゃん、久しぶり!」


ふわっと私に抱きついてくるおばさんを足に力を入れて受け止めると、鞄を持っていないほうの手を背中にまわす。

「ご無沙汰しています、おばさん。お元気そうで、何よりです」

身体を離したおばさんが、優しく笑う。

「えぇ、無駄に元気よ。美咲ちゃんの顔を見られてうれしいわ、さ、入って。お土産も買ってきたんだから~」


私の手を引いて歩き出そうとしたおばさんに、哲の声が飛ぶ。


「おふくろ、俺には何もなしかよ」

後ろに立つ哲の少しふてくされた様な声に、思わずおばさんが笑う。

「美咲ちゃんとられてふてくされんじゃないわよ、哲のくせに。まったく昔から心狭いわね。誰に似たのかしら」


口調は全て、おばさんです。


内心苦笑いしながら、手を引かれるままにリビングに入っていく。

そこには、箱の山。


「なんだよこれ、何をこんなに買ってきたんだ?」

呆れたような声を出した哲が、ソファに自分の荷物を放り投げると箱の山に近づく。

おばさんは哲の言葉を無視しながら私を箱の前に連れて行く。


――やばい、なんか覚えのある状況


うっすらと脳裏に浮かんだ、過去の風景。

にっこりと笑うおばさんの口から出る言葉は、昔と寸分代わらない。


「美咲ちゃんに、似合うと思って買ってきたの! 全部着てね、今」

「――おばさん……?」

後ろで私の肩をがっしりと掴む、おばさんの楽しそうな声。


――ちょっと待て

これ、全部でいくら……

昔もらってた頃は高校生だったから、子供の甘えもあったけれど――


「おばさん、流石にちょっと……」

苦笑いしながらゆっくりと顔を向けたら、にっこりと笑うおばさんの目と合う。

「……着てくれるわよね?」

「――はい」


なんでこの人、こんなに威圧感をまとえるんだーっ

いつもは優しい女性なのにっ


横に立っていた哲が私の頭を軽く叩きながら、諦めろ……と自分の部屋へと二階に上がっていった。




「その前にご飯食べましょうね~。美咲ちゃんは、その箱の山、開封してて頂戴?」

「――なんだか、すみません」

子供じゃないんだから、ホントはこんなにしてもらうのが申し訳なかったりする。

しかも、もうお隣さんでもないのに。


私の声が聞こえたのか、私に向っておいでおいでをするおばさんの傍による。


「あのね、美咲ちゃん。私が、あなたを好きなの。好きな子にはいっぱいいろんな物をあげたいのよ。だから、全部私の我侭。美咲ちゃんが謝る事なんて、一つもないんだからね」

さっきみたいな表情じゃなくて、優しく微笑むおばさんに小さく頭を下げる。

「それに、うちの哲が迷惑かけてるみたいだし」

「あはは、迷惑だなんて。そんなことないですよ、たまにご飯たかりに来るくらい」

「そうそう、俺が美咲を世話してやってんの」


着替えた哲がキッチンに顔を出して、ふふんと笑いながら冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。

おばさんはその姿をじろりと睨むと、さっさとフライパンと向き合った。


「美咲ちゃんのこと好きなくせに、ずっと言えない小心者に用はないっての」


――は?


思わず目を見開いておばさんを見返す私と、後ろで水を噴出しそうになるのを堪える哲。

そんな二人を見ながら、おばさんは手を動かしながら話を続ける。

「見てれば分かるわよ、まったく。態度が子供のまんまなんだから。あ、美咲ちゃん。気にせず振ってくれちゃっていいからね。美咲ちゃんには、もっと素敵な男性が似合うから」


――て。何?!

なんでそんなタイムリーな話?!


咳き込んでいた哲が、整えるように息を吸ったり吐いたりしながらボトルをダイニングテーブルに置いた。

「うるせぇよ。おふくろに関係ないだろっ」

「関係おおありよ! 美咲ちゃんには幸せになって欲しいんだもの~」

「俺じゃ、幸せに出来ないって言いたいのかよ」

「うん」

「てめ、母親のくせにっ」


カウンターキッチンの内と外で交わされる会話に、固まる私。

これは、一体、私はどうしたら…………


そんな私に気付いたのか、おばさんがにっこりと笑う。

「あら、もしかしてもう哲を振った後だった? それならいいんだけど~」

「まだ、振られてねぇってのっ」

哲の声が飛ぶ。


「あら、じゃあ振られる手前? あんたやっと告白できたんだー、ホントへたれ」


途端、ぐっ……と黙ってちらりと私に向けられる哲の視線。


何も答えられず固まっている私。





――おばさま、おばさま


あの、地雷踏みました――――


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