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「――あ、の……」

恐る恐る視線を上げると、上から見下ろす課長の視線とぶつかる。

「なんで、お前と斉藤を二人にしなければいけない」

――え……と

「そんなに言うなら、俺とここで一緒に寝るか?」

背中に、変な汗が伝う。

そのまま見上げていたら課長が動く感覚に思わず後ずさりすると、同じ距離を課長が前に出る。

「久我」

「あの……」

「久我」

名前を呼ぶたび課長の足が近づいてくるから、私もそのまま後ろへと足を動かす。


数歩もしないうちに、ふくらはぎに何かが当たってそのまま後ろにしりもちをつく。

身体に感じるやわらかい感覚。

ベッドに腰掛けるように座った私は、それでも課長を見上げていた。


だって、目を反らした方が怖そうで――


ゆっくりと上体を屈めて、課長の顔が近づいてくる。

「あ……の……」 


私を少し上から見下ろしながら、頬に手が触れる。

時間が止まったかのように、私は息をするのも忘れてその顔を見上げた。


「課長……?」


ここに斉藤さんが来たら、卒倒します。

――喜ばれたりして(涙


意識は逃げようとするのに、体が動かない。

ただただ近づいてくるその顔を、じっと見ていた。


もう少しで唇がつきそうだったその時、

「課長ー、もう出ますよー。お先すんませんでしたー」

脱衣所の中から、斉藤さんの声。

課長の動きが、止まる。


「時間切れ」

そう言いながら私の頬から手を外すと、上体を戻す。

「まぁ、よく寝ろ」

――ねーれーるーかーっっ!

って、叫んでやりたかったけど、不覚にも驚いて緊張していた私の喉からは声はでず。

その様子を見て小さく笑うと、そのまま部屋を出ていった。


閉まるドアの音。


その向こうでは、洗面所から出てきたのか斉藤さんの声がする。

強張っていたからだから力がぬけて、思わず息を吐いた。

「びっくり、した」

こういう状況、ないもんで。

びっくりです、心底びっくりです。


斉藤さん、ぐっじょぶ!


が。

あのね。


嫌いじゃなかったら、二人の恋愛ごとに付き合ってやってとか斉藤さんに言われましたが。

自分の心臓がどこまで持つかが、疑問です――――



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