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はて。なんでこんなに揺れてるんですかね。
私は何をしていましたかね。
「おい、斉藤。大丈夫か?」
あぁ、そうそう。斉藤さんと飲んでいたわけで。
――あれ、二人じゃなかったっけ?
なんで、斉藤さんと二人なのに、斉藤さんを呼ぶ声?
「頭いてぇー。課長、水ください水」
「勝手に飲め、まったく」
――なんか、恐ろしい役職名が聞こえてきました。
あの、冗談ですよね?
「久我、大丈夫そうですか?」
蛇口からコップに水を入れる音が聞こえて、斉藤さんの声が近づいてくる。
「まぁ、お前が復活するの待ってて寝ただけだろ。そんなに酔ってるわけじゃなかったって、店員が言ってたし」
――で、ここどこ。
蛇口でコップって、店じゃないよね?
ゆっくりと下ろされて、何かに背中をつけた感覚。
私、今、どこにいるんですか???
恐る恐る、うっすらと目を開けてみる。
霞んだ向こうに、課長の顔。
「あ、起きた」
後ろに、斉藤さん。
「――あの……?」
ゆっくりと上体を起こすと、そこはソファの上。
ぐるりと見回しても、私の思考は停止中。
見知らぬ部屋です。
ここどこですか?
自分のアパートじゃないですよね??
こんなに広かったら、手放しで喜びます。
「わりーな久我、迷惑かけて。いやー、俺たち二人とも寝ちまったから、困った店員さんから課長に電話がいったんだって。あれ? そーいえば課長、遅くまで仕事してましたねぇ」
コップの水を飲み干して、再びキッチンへと戻っていく。
その後を、課長が引き継いだ。
「あの店、よく斉藤と行くところなんだ。もう終電ないし、どうしようかと困ったらしくて俺に連絡が来た」
「え? 終電がない?」
って、今何時?
腕時計を慌ててみたら、深夜の一時過ぎ。
「俺ら、どんだけ寝てたんだよなー。課長に起こされた時、毛布までかけてもらってたよ」
そういって笑う斉藤さんに、ちゃんと謝っておけよと課長の言葉が飛ぶ。
「仕方ないからうちに連れてきたんだ」
――うすうす気付いていましたが、やっぱり課長のご自宅でしたか――
私はソファから降りると、頭を下げる。
「すみません、ご迷惑おかけして。あの、私帰りますから……」
「さっきも言ったが、終電ないぞ? 泊まっていけばいいだろう、斉藤もいるし」
「あははー、俺、課長んちに着替えまであるんだぜ? よく泊まるから」
スーツを脱いで笑いこける斉藤さんに、お前は自重しろと課長が冷たい視線を送ってる。
いや、ほら。斉藤さんはいいけどさっ
見当たらない鞄を目で探しながら、両手を振ってごまかす。
「いやいやいや、ほら。タクシーとか帰る手段は、いくらでもっ」
課長は腕を組んで、ふぅっと息を吐く。
「さっきの居酒屋から、うちは近いんだ。必然的に、会社まで歩いていける。明日楽だぞ?」
そーなんだー、課長ってば会社と最寄り駅が一緒なのねっ
「そうそう、楽だぞー久我ー。無理すんなー」
じろっ、と斉藤さんを睨むと、こえーって笑いながらお風呂借ります~だって。
なんて暢気な。
もし仮によ、もし仮に柿沼じゃなくても会社の人に見られたらやばいでしょ。