表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/219

身体に回される腕の力が強くて、身動きがとれなかった。

視界には、ピントのぼけた課長の顔。

顔が触れるか触れないかの、すれすれの位置で課長が私を見下ろしている。


ちょっ……この体勢は……


――恥ずかしいってのっ


接近しすぎだからっ! おかしいからっ!


「はっ、離してっくださいっ」

くっ、声裏返るしっ


身体を捻ってみても、課長との間に挟まれている腕を伸ばそうとしてもピクリともしない。


離せっての!

さっきはなんだか威圧されましたがっ! 


とりあえず、顔はそむけるよっ

近いんだって! そんなすれすれに顔がある状態が、続くほうがおかしいってば!

「じゃあ、動いていいか?」

「は?」

なんで私の脳内の叫びに、ご返事がっ?

動きの止まった私に、課長の笑い声。

「声に出てる、お前の思考。この状態が嫌なら、動いていいんだよな?」

ぐあっ

「後ろもしくは上限定でっ!」

「前もしくは下限定だな」

「却下!!」


首が抜けるんじゃないかというほど横に反らして、課長の顔から遠ざける。

って言ったって、そんなに遠ざからないのがイタイところ。


うんうん唸りながら、なんとか腕を解こうともがいていたら、丁度左手の甲が腹筋に当たって思わず固まる。

――何、この腹筋っ 硬っ

恥ずかしいよりも、その腹筋の厚みにびっくりした。


私、これにいつもボディーブローをかましていたわけですか。

――効かないはずです。

どちらかというと、私の拳のほうが痛手を被りそうです。


そーいえば斉藤さんが、課長のことなんか言ってたっけ。ボクシングやってたから強いよーって。

あの時は疑いの眼差しを向けていたけれど、これは納得。

やっぱり若い時に身体作っとくと、あまり崩れないのかしらねぇ。

哲も体型変わらないし。


手の平をぺたぺたと腹筋に当ててたらいきなりそれが小刻みに震えだして、慌てて手をはずしたら頭の上から押し殺した笑いが降って来た。

顔は上げられないので、視線だけ課長の方に向けたら奴は口元を緩めて笑ってる。


「なんですか、課長」


何笑ってんだーっ、人のこと襲っといてっ


睨み上げた私を見て、ふっ……と息を吐く。


「何、俺の腹触ってるんだよ。余裕だな、久我」

「っ! 触ってない! 余裕じゃない!」

「触りたきゃ、遠慮せず。同じように触るから」

背中に廻っていた手が少しずれて、私のお腹に触れる。


――って!


「うひゃっ、やっ、くすぐったっいっ!」

「ははっ、お前も同じことしただろ」

「そっこはっ! わきっ脇ですっっ!」

指先しかお腹に届いてないから、ほとんど脇腹だってーのっ!


「課長のスケベッ! 変態っ! もう、離して!!」

「っは、面白いなぁホント」

少し上体を屈ませていた課長は、身体を伸ばして私の背中をぽんぽんと軽く叩く。

「なら俺の腹を触ったお前も、変態ってことだな」

「違う!!」

課長は、面白そうに笑ってる。

ていうか、レアだな。課長の笑顔。

なかなか見れない。見たこと知られたら、柿沼に呪われそう。


なんて、脳内思考に走ってみたけど、頬に当たる体温に現実に戻される。


うー…………

顔が遠くなったのはいいんだけど、あの。

腕が離れません。

よって、身体が離れません。

背中の上の方を押さえられているので、顔をがっつり課長の胸に押し付けてる感じで。


どっちにしろ、恥ずかしいって!!


……れっつ再トライ


「そりゃっ」

もう一度両腕を課長の胸に押し当てて、力の限り押してみる。


――はい、無理でしたー


びくともしない課長の身体を恨めしげに睨みつけ、私の抵抗はあえなく終了。


はぁ。じたばたしても、疲れるだけか。

もういいや、諦めよう。


肩に入っていた力を抜いて、ふぅと息を吐く。

まぁ、人間どうにも出来ないことの一つや二つくらいはあるってもんさ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ