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「あらあら瑞貴くん、頑張ったのねぇ。やっと言えたんだ」

食べ終えたお弁当を横においてお茶を飲みながら、加奈子はふんわりと笑う。

「やっとって……」

さすがに詳しいことはいえなかったけれど告白されたって言った途端、加奈子が嬉しそうに笑うから思わず呟く。

私の呟きに加奈子は、軽く笑うとお茶をテーブルに置いた。


仮眠室内にある休憩室。

案の定誰もいないここは、ある意味会社の中で一番安心して話せる場所かもしれない。


「だって瑞貴くん、いくらけしかけても動かないんですものー。ちょっと、イラッとしちゃった。まぁ、それだけ美咲と一緒にいたのが長すぎたんでしょうけど」


――楽しそうに言ってますが、だいぶ毒舌ですネ

人が悩んでいる傍で、面白そうですことっ


「だいたい加奈子、いつから知ってたのよ。哲のこと」

いつからって……と、意外そうな加奈子の視線に首を捻る。

「どう見たって、瑞貴くんの美咲への態度って、子供が好きな娘苛めちゃう、あれにしか見えなかったから」

「私にはただの我侭っ子にしか見えなかったけれどね」


小学校からあんな状態なんですが。

美咲おねーちゃんと呼んでくれていたのが、懐かしい。

私が中学入ったころかなぁ、いきなり呼び捨てにかわったのって。


むすっと膨れながらお茶を飲んでいると、加奈子は楽しそうに笑う。


「かわいいちびっこ瑞貴くんが、ちっとも想像つかないものね」

でしょ? と、頷くと、加奈子は笑いを収めて私を見た。


「で? 加倉井課長と瑞貴くん。どっちにするの?」

「――どっちにって……」


見たくない現実を、突きつけるなぁ。加奈子は……。


私は口を開いてみたものの、何を話せばいいのか分からず片手で後頭部を抑えながら俯く。

「どっちにって言うか、その……」

根本的なところなんだよね……

「課長のことは上司としか思えないし、哲のことは幼馴染としか思えなくて。だから変な話、今すぐに返事しろって言われたら二人ともごめんなさいなんだよね」


だって想像できない。

二人と恋人同士的なことをするなんて。


「だいたい哲なんてさ、弟っていうか家族に告白された感じで。いきなりそう思えって言われても、無理……だと……」

と、加奈子に同意を求めつつ、あのまったく私の知らない哲の表情を思い出して言葉が途切れる。


加奈子はそんな私を見ていたが、もしかして……と首をかしげた。

「美咲、好きな人でもいるの?」

「いないよ」

即答。


いや、いたらもっと返事はらくなんだけどなー。


「でも、課長には今すぐ返事はするなって言われたし、哲にも……おんなじ様なこと言われたし。なんだかどーしていーのか」

「ふふ、美咲がお子様だから周りが我慢するのね。頑張って大人になりなさい?」

飲み終えたペットボトルをゴミ箱に放りながら、加奈子は余裕な表情で笑う。

「じゃー、加奈子は大人なわけ?」


なんか、嫌な感じー。


加奈子は小さく首を傾げて、口に手を当てる。

「少なくても、美咲よりは……ね。瑞貴くんの気持ちにも気付いたしー」

「それって、哲が加奈子にはそういう所を見せてたってだけじゃなくて?」

ちょっと悔しくなって、意地で言い返したら。

加奈子は、少しため息をついた。


「美咲が見えてなかっただけよ。近すぎると他人よりも相手の事わからないのかもね」

「――え?」


思わず顔を上げる。

加奈子はテーブルにひじをついて、ふわりと笑う。

「瑞貴くんの事。誰も本性を理解してくれないーっていつも言ってたけど、一番理解していなかったのって美咲だったのかもよ?」


そのコトバは、とても私の心に痛かった。


奴をちゃんと見てきたはずの私が、実は一番見ていなかったなんて。




しばらくして加奈子は会長の到着を知らせるポケベルの音とともに、仮眠室を出て行った。

あまり気にしちゃだめよって、言葉を残して。



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