それは終わりと始まりの音。・2
幼い頃から、ずっと好きだった美咲。
まだ好きだと思う気持ちはあるとはいえ、それは既に折り合いのついた過去の想いになっていると感じていた。
なのに……
「好きだって、思う人がいるんです。あの後、初めてそう思えた人が」
「うん」
「でも、そのきっかけは……美咲に似てるなとそう思ったから、で」
そう言って、さっき駅に向かいながらずっと考えていたことを包み隠さず吐露した。
情けないと、そして彼女にとって卑怯な男だとそう詰られてもそれでいいと思った。
正直、自分でそう思うから。
「俺は、分かんないんですよ。彼女の事が好きなのか、美咲に似てるから好きなのか」
混乱している俺の頭は、正直、この一言に尽きた。
「もし後者なら、近づいちゃダメだってわかってるんですけど、どうしても彼女を探してしまうんですよ」
そして近づいて言葉を交わして、そうして相手から向けられる好意を感じると逃げるように避けてしまう。
卑怯すぎて、ベタに傷を治すためだけの人を手に入れたがっているようで、自分自身に吐き気がするくらい。
「そんなに似てるの? 二十年以上一緒にいる瑞貴から見て?」
……二人が似ているところ……
雰囲気が、似てる。
些細な行動が、似てる。
確かに、違う所だって、多々ある。
けれど本当は似ているのに、そう感じちゃいけないと思い込む俺がそういう部分を殊更強調してみているだけなのかもしれない。
俺の情けない話を、間宮さんは先を促すこともせずただ聞いてくれる。
それが、本当に嬉しかった。
間宮さんには申し訳ない事をしているけれど、鬱屈していたものが少し晴れた気がする。
話し終えた後、俺は間宮さんの顔をまっすぐに見て頭を下げた。
「すみません、こんな話聞かせて。すげぇ楽になりました」
間宮さんはふっと目を細めると、飲み残していたコーヒーを一気にあおる。
「そう? ならいいけど、瑞貴はこの先、その女性の事をどうするつもり?」
彼女の事を?
そりゃ決まってる。
「なるべく近づかない様にしようと思います。こんな気持ちの俺が傍にいたら、彼女が可哀想ですから」
名前さえも聞こうとしない、こんな俺の傍に。
はは、と軽い笑い声を上げた俺に戻ってきた答えは、なぜか目の前からじゃなく真横から投げつけられた。
「……その方が、酷くないですか?」