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もしも過去のどこかで哲が頑張っていたら

アルファポリス様の恋愛大賞に、投票してくださった皆様、ありがとうございます。

登録しているのに新しい話が一つも無いのもなぁと思って、お遊びSS書いてみました。

直接書きなので、誤字脱字あったらすみません。



「お前が、好きだ」

そう伝えたら、美咲はどう反応するんだろう。

小さな頃から、ずっと思っていたこと。

そして――

そう伝えていたら、現在(いま)は変わっていたのかな……







---------------------------------


「美咲、俺、お前のことずっと好きだった」

「え?」


企画課に来て一ヶ月、初めて残業したある日の夜。

金曜日の今日は、先輩である間宮さんは定時で帰り、斉藤さんと加倉井課長は共に神奈川支社に会議に行っていて今日は直帰する予定。

よって、誰もこの企画室には来ない。

だから、チャンスだと思った。


……え? 美咲のアパートで言えばいい?

無理。拒否されても受け入れられても、その後どうなるか想像できるから。

ここなら、ほら、一応ストッパーになるっしょ。

誰か来るかもしれないから。

……悪かったな。これでもずっと我慢してきたんだ。

一度その言葉を口にしてしまえば、簡単に箍は外れる。

つーか、自分で外して投げ捨てる。



キーボードを叩いていた美咲は、一瞬動きを止めてPCの横から顔を見せた。

席が真向かいだから、どうしてもPC越しに顔を合わせることになる。

「何? なんか言った?」

本当に聞こえていなかったのか、それとも聞こえていても理解できなかったのか、不思議そうな表情で首を傾げている。

俺は座っていた椅子から腰を上げて、美咲の横に立った。

目で俺を追っていた美咲は真横に立たれて見上げづらいと思ったのか、少し椅子をずらして立ち上がろうとした。

それを押さえるように、椅子の両端を掴んで動きを止めさせる。

「どうしたの? ねぇ、何かあった?」

心配そうに見上げてくる美咲の表情に、焦りも不安も無い。

それは俺が、安心無害な幼馴染だから。

自分が恋愛対象外にいると、無意識に信じているから。


それが、俺の、焦りを生み出しているとは知らずに――



ゆっくりと腰を屈めて、美咲と目を合わせる。

それでもきょとんとした顔で見返されて、思わず脱力しそうになる。

ここまで意識されないのも、すげぇ悲しい。


「あのな、美咲」

「うん、何?」


挫けそうになる気持ちを、何とか奮い立たせる。


「俺、お前が好きだ」

「うん、私も好きだよ?」


――


驚きすぎて、瞬きを忘れた。


「え……?」


自分から言っておいて、つい聞き返す。

いま、俺のこと好きって……

美咲は聞き返されたことに疑問を持ったのか、首を傾げて俺を見る。

「私も好きよ? 何、どうしたの。何かあったの?」

「えっ、あの……え?」

こんな簡単に、想いが通じるものなのか?

あれ? 俺の成人式越えの片思い期間ってなんだったの?


「哲?」


美咲の声に、現実に引き戻される。

その声のするもと……、その唇に目が止まった。

……触れて、も?

好きなら、我慢しなくても……


「哲?」


もう一度俺の名を紡ぐその唇をじっと見ながら、顔を傾け……



「何今更確認してんのよ。嫌いなわけないじゃない、嫌いだったら幼馴染やってないでしょ」


「……」


……るのを止めて、視線だけ美咲に向ける。

俺が近づいているのに、顔を赤くするでもなく驚くでもなく眉を顰めて見返してくる。

「美咲?」

思わず聞き返した俺に、なぁに? といつもの調子でにこりと笑う。

「今、好きって……」

言ったよな、俺のこと。

美咲は不思議そうな表情で、頷いた。

「好きよ? だって、ずっと一緒にいてくれた弟だもの。血は繋がってなくてもね」


――おとうと?


「え、それ……って?」

「でもそんな事聞かなくてもねぇ。何かあったんでしょ? 大丈夫よ、おねーちゃんが守ってあげるから!」


「うわっ」


そう言って振り上げた美咲の右の拳が、危険を察知して身体を反らせた俺の左頬に思いっきりクリーンヒットした。



---------------------------------------



「……つ、て……つ、哲! ちょっとやだ、大丈夫?」

おぼろげに聞こえてきた声と、頭に広がる衝撃と痛み。

閉じそうになる瞼を何とか開けて、目の前の影を視認した。

「み……さき?」

そこには、心配そうに俺を覗き込む美咲の姿。

俺が口を開くと、美咲はほぅっと息を吐いた。

「びっくりしたわよー、いきなり凄い音が部屋から聞こえてくるから」

凄い、音? 部屋?

てーか、今企画室だったんじゃ……


起き上がりながら目を指で擦ると、そこに見えたのはTシャツ短パン。

さっきまで着ていた、スーツじゃなくて。

「え?」

ぐるりと辺りを見渡すと、そこは――

「俺の、部屋?」

見慣れた、自宅の俺の部屋だった。

ドアが開いていて、そこから真崎と後輩二人も顔を出している。


「それにしてもあんた、寝相悪いのねぇ。ベッドから落ちたっていうか、ベッドから飛び降りた感じ?」

「へ?」

よく見れば、ベッドから少し離れた場所に座り込んでいる状態。


「ゆめ……?」


呟けば、楽しそうに笑う美咲。

「凄いわねぇ、夢でここまで反応って。どんな夢見てたのよ」

「どんなって……」

思わず美咲を見た俺に、真崎がニヤニヤと気持ち悪い笑いをあげてくる。

「どんなだろうねぇ、想像はついちゃったりするけどねぇ」

その言葉に、一気に現実に戻った。

「大丈夫、全然平気! 悪かったな、驚かして」

慌てて立ち上がってドアの方を見ると、後輩二人はにこやかに、真崎のみ真っ黒な笑顔で各々の部屋に戻っていく。

「ホント大丈夫? 頭打ったりしてない?」

しゃがんだままの美咲が、心配そうに俺を見上げてくる。

その姿がなんだかさっきの美咲と重なって、思わず目を逸らした。


「大丈夫だよ。悪い、まだ早いだろ? 二度寝でもして」

逸らした視線の先には、机の上にある置時計。

そのデジタル時計は、五時半を表示していた。

日曜で休日だというのに、へんな時間に起こしてしまった。


美咲はよいしょ、と呟きながら立ち上がると、俺の頭を背伸びしながら撫でる。

「うん、こぶは大丈夫そうね。痛くなったらちゃんといいなさいよ? 哲、変なところで我慢強いんだから」

そういいながら、二・三度ゆっくり撫でると、その手を下ろした。

「まったく、哲はいつまでたっても子供なんだから。おねーちゃんは心配だ」

肩を竦めてそう笑うと、美咲も部屋を出て行った。


パタンとしまるドアの音に、脱力してベッドに身体を投げ出す。


少し頭がずきずきするのは、ベッドから落ちた時に打ったんだろう。


「夢オチかよ……」


そう呟きながら、顔を枕に鎮める。



つーか、夢でもダメなのかよ!!



誰にも聞こえないように心の中で叫んだ、瑞貴 哲弘 二十六歳。

幼馴染に、絶賛失恋中。

ただいま、その幼馴染と同居して三ヶ月――




俺に、救いはないのかよ……



不貞腐れる哲に、その日、二度目の眠気はやってこなかった。


ははははは、夢でも振られる哲くんでした(涙←作者はいじめっ子

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