君だけを見つめていた 6
side 哲
「哲、まだ入ってなかったの? もう、課長も中だよ」
教会の前では課長の父親と美咲の両親が何か話していて、それを聞いていただろう美咲が俺を見つけて手を振った。
本館から外に一度出るタイプのこの教会は、丘の上に建っているからかとても静かで。
その分声は、良く通る。
「美咲、そんな大声上げなくても聞こえてるよ」
ポケットに両手を突っ込んで、美咲の前に立つ。
美咲は頬を膨らせながら、腰に手を置いた。
「哲ってば、ホント可愛くないんだから。早く入りなさいよ」
そう言う美咲の腕を掴んで、横にずらす。
驚いたように俺を見上げる美咲から、課長の父親へと視線を移した。
「初めまして、瑞貴 哲弘と言います。この度はおめでとうございます」
頭を下げれば、課長の父親もゆっくりと頭を下げた。
「ありがとうございます。いつもうちの息子がお世話になっております」
課長の父親はとても落ち着いた雰囲気で、がっしりした体格は親子なんだなと納得させられる。
今回の事を説明しようと口を開くと、父親の言葉に遮られた。
「先ほど伺いました。どうぞ、よろしくお願いします」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
もう一度頭を下げると、美咲の両親と課長の父親は扉を少し開けて中に入っていった。
「えっ? あれ?」
意味が分からず混乱しているのは、美咲だけ。
近くにいるスタッフにも話は通っているらしく、扉に手を掛けて俺たちを見ている。
その人たちに少し待ってもらうよう伝えて、美咲と向き合う。
「哲、これどういうこと?」
眉間に皺を寄せて俺を見上げる美咲。
その皺を伸ばすように、指先でそこに触れた。
「親父さんに、頼まれた。美咲と一緒に歩くのは、俺が適任だってさ」
「なっ……」
目を細めた美咲は、さっき両親が入っていった扉の方を見た。
それを宥めるように、肩を軽く叩く。
「親父さんより、俺の方が長い時間美咲と一緒にいるから。お前に対する責任は、確かに俺にあるよな」
「哲……」
何か言いたそうな美咲を、視線で止めた。
「ずっとお前を守ってきたつもり。……だから」
困ったように視線を揺らす美咲の、その腕を取る。
「俺が、連れて行く。課長のところに」
見上げる美咲は一瞬目を瞑って、すぐに微笑んだ。
「転ばないでよ?」
その笑顔に、俺の緊張も解ける。
「あぁ、お前こそな」
俺の腕に絡められる、美咲の細い腕。
その存在を、心の中でかみ締める。
「ご準備はよろしいですか?」
スタッフの声に、二人で頷く。
「さ、行きますか。美咲ねーちゃん」
「そうね、哲」
少しずつ開いていく扉の向こうは、光が溢れていて。
美咲の明るい未来が、そこに見えた気がした。