君だけを見つめていた 5
side 宗吾
挙式を行うのは、小さな教会。
前面の十字架の向こうは大きな窓ガラス。
そこから見えるのは、綺麗な空。
少し張り出した丘に立つこの教会の窓からは、建物が一切見えない。
間宮の知り合いが勧めてくれて、美咲が一目で気にいった。
すでに皆が席についている。
うちと美咲の親、そして牧師だけまだ外にいるみたいだが。
「加倉井課長、緊張してる?」
前の方に座っている斉藤が、前の座席の背もたれに両腕を置いてにやにや話しかけてきた。
「そりゃ、緊張くらいする」
「見えないですよー、無表情すぎて」
な、と隣の間宮に同意を求めるように声を掛ける。
間宮はそんな斉藤に苦笑しながら、俺を見た。
「緊張しますよね、さすがに。でも、どこにするんです?」
「ん? 何が?」
どこ?
首をかしげると、間宮の隣に座る真崎が意地悪い顔をして笑った。
「誓いのキス。しないとか、言わないでしょ?」
「――」
――突っ込むな! 考えないようにしてるんだから!!
と、内心叫んで真崎の言葉を流す。
「えー、口でしょ? 口じゃなきゃ、ありえない」
流したはずだったのに、騒がしい後輩に拾われた。
田口と加藤。
誰かこいつら抑えとけ!
胡乱な視線を向けると、佐和がとりなすように後輩二人の頭を撫でた。
「大丈夫よ、課長なんだから。営業トップだったんだから。部長も兼任してるんだから」
……なんだ、その羅列……
嫌な雰囲気にじっと佐和を見つめると、にっこりと笑顔を返された。
「空気読むのは得意ですよね?」
――こいつが一番、難関だった。
何を言っても無駄だと諦めて、溜息をつく。
そのまま立ち位置に戻ろうとした俺の視界に、いるべきはずの人間が、映らなかった。
「……?」
動きを止めて、視線を廻らす。
……いない?
水沢はいるのに、その隣にいるだろうあいつの姿がない。
遅れて入ってくるのか? と、納得しかけた時だった。
教会の後ろの扉が小さく開いた。
そこから、牧師と両親が入ってくる。
牧師は、祭壇へと。
うちの父親と久我の両親は、脇から一番前の席へと。
「――え?」
小さく呟いた声は、久我の両親にだけ聞こえたらしい。
俺を見た久我の両親は、小さく頭を下げた。
なぜ、父親が……?
その時、ピアノの音が、響き始めた。
スポットライトが、扉に集まる。
ゆっくりと開けられていく、扉。
そこには、二人、並んでいて。
その一人であるべき、美咲の父親は俺の傍に座っている。
そして、いるべき男が一人、いない。
席に座っている奴らも、その人物に気付いたらしく複雑な表情を浮かべている。
なぜなら。
開け放たれた扉の向こうには。
「……瑞貴」
美咲の隣に、瑞貴が立っていた。