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君だけを見つめていた 4

Side 哲



控え室はこちらに向けてオープンになっていて、皆から祝福される課長と美咲の姿が見える。

きゃいきゃいはしゃいでいるのは、後輩の二人。

俺の事を探していたという、田口と加藤。

用があるなら、さっさと俺のところに来ればいいのに。

そう思いながら、声もかけずただその光景を眺める。



多分、普通の人に比べればとても少ない人数の、こじんまりとした結婚式。

何回か出席した友人の結婚式は、親戚だけでも今いる人数を越えていたように思う。



でも、こんなに和やかで幸せそうな式はなかった。

初めて会う人達もいるのに、控え室にいる間に仲良くなったのか一人でいる人はいない。

美咲が望むような、温かい雰囲気。

それは周りの人間が作り上げているんだろうけれど、中心は美咲で。

彼女が彼女だからこそ、周りにそういった人間が集まる。



傍にいたい――


――見ていたくない



相反する感情が、心の中を渦巻いている。



綺麗な美咲を、まだ結婚していない美咲の傍にいたい気持ちと。


他の男のものになるために、綺麗になる美咲を見ていたくない気持ちと。



あぁ、誰か。


誰か。



誰か、今、俺がどうするべきか決めてくれ。

何をしても、後悔しそうで、苦しい。




「哲弘」


突然呼ばれた声に、びくりと肩を震わせる。

誰か、と望んでいた時に、タイミングよく名前を呼ばれて心臓が跳ねた。


気持ちを落ち着かせるように小さく息を吐き出すと、顔をゆっくりと上げる。

「……亨」

そこには、柔らかく笑う亨の姿。

珍しく掛けている眼鏡が、少し幼く可愛い顔を大人っぽく見せている。

隣に来たのが亨だったことにほっとした俺は、強張った体の緊張を解いた。


「なんだよ亨、美咲の傍にいなくていいのか?」

と笑うと、亨は上目遣いに俺を見てから苦笑した。

「察してよ」

たった一言。その言葉で、一年半前の亨が脳裏に浮かぶ。



美咲と課長が初めてデートするのに気がついた俺と真崎は、邪魔をするべく後をつけていった。

その時、偶然亨にも会って。

初めて、亨の気持ちに気がついた。


亨もまた、俺と同じ立場だったって事に。

ただ既に一年半もたっていたし、そんな素振りをあの頃から見ていなかったから、もう過去の事になっているのかと思ってた。


「お前も、まだ、か?」

ゆっくりと呟く。

亨も、美咲を見つめながらくすりと笑った。

「今日で、やっと他に目を向けられるかな。お互い」

「――強制的に、な」


美咲は、幸せそうに、笑う。

たまに、課長と目を合わせながら。

それを見る、真崎や佐和先輩。間宮さん、斉藤さん……皆……美咲に関わった皆が幸せそうに微笑む。



「幸せ、そうだね」


ぽつり 亨が呟いた。


「幸せ、そうだな」


ぽつり 俺が呟く。


「俺、気持ちさえ伝えられなかった」


ぽつり 亨が呟く。


「俺は伝えたけど、ダメだったよ」


ぽつり 俺が呟いた。



「――俺が、幸せにしたかった、な」


そう言うと、亨はいつもは吸わないタバコをポケットから取り出してロビーを歩いていった。


「――俺も、あいつを俺の手で幸せにしたかったよ」


その後姿を見ながら、俺は呟いた。





しばらくそのままロビーに突っ立っていたら、思いの外時間がたっていたらしい。

タバコを吸いに行っていたはずの亨が、いつの間にか戻ってきていた。


「さてさて、もうすぐ挙式だよ」

その言葉に控え室を見るとすでに美咲と課長は教会に行ったらしく、それを追うように歩き出す列席者達の姿。

もう、ほとんど残っていない。


行こう、と歩き出す亨に首を振る。


怪訝そうに振り返る亨に、両手を挙げる。

「別にボイコットするわけでも、盗むつもりもないって」

「なら、どうして」


挙げた手を下ろして、両腕を組む。

「きっつい役目を背負ってるんだよ。強制的に、頼まれて」

「役目って……」

「後でわかる。先行って」

それが何か聞きたそうな亨の背中を押して、強引に歩かせる。

諦めた亨が廊下の角を曲がるのを見送って、溜息をついた。


俺だって、やりたくねぇよ。

客観的な立場で、終わりたかった。

自分を慰めながら。


ゆっくりと、歩き出す。

終わりの、場所へ向かって。


ここが教会なら、本当に神様っているのかな。

なぁ、神様。

ここまで、俺を傷つけて、楽しいか?



天井を仰ぎながら、小さくため息をつく。





――わかってるよ





最後まで、責任を取れって。

美咲を守ってきた俺に、最後まで責任を取れって……そういうこと、なんだろ?






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