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君だけを見つめていた 1

1 結婚式 当日 ――挙式前――



Side 哲



「え……?」

思わず、聞き返した。


今日は、幼馴染で会社の同僚、久我 美咲の結婚式。

相手は、俺と美咲の上司、企画課課長 加倉井 宗吾。


両親が離婚している美咲には、親戚がいない。

いや呼べば来るのだろうけれど、あえて呼ばなかったらしい。

以前の頑なな態度を考えれば、両親を呼んだだけでも彼女にとっては頑張ったといえる。


加倉井課長の家族も別に結婚式にこだわりはないらしく、課長の友達やごくごく仲のいい親戚が数人出席するだけで、ほとんどがうちの会社の同僚ばかり。

出席人数もとても少なく、全員合わせても三十人いるかどうか。

ある意味、緊張も何もしない和やかな雰囲気が控え室にも漂っていた。



――のに



教会での挙式を一時間後に控えたこの時、目の前に立つ夫婦……いや、元夫婦。

美咲の両親が、控え室にいた俺を人気のないロビーの隅に呼んだ。


「何、言ってるんですか……」


言われたことに、頭が真っ白になった。

瞬きもできず、少し下にある美咲の父親、久我利明――俺達の中で言う久我部長――の顔をじっと見つめる。

久しぶりに見る久我部長の顔は、以前より明るい雰囲気で。

完全とはいえないまでも、結婚式に呼んでもらえるくらいは美咲との仲が修復できた喜びが見える。

で、その父親である久我部長が……


「私の代わりに、美咲とバージンロードを歩いてもらえないだろうか」



と、俺に頭を下げた。


ありえねぇ……

俺、結婚もしてないのにそんなとこ歩くの?

てか、え、美咲に振られたのに、持っていった男に俺が渡すって事?

え、ちょっと待て。ちょっと待てって。



「いや、俺には荷が重……」


しかも俺が美咲に振られたことを、知っている奴らが挙式には来る。

そんな中、美咲の父親の役でバージンロードを歩けと?


どんな拷問だよ、俺、なんかした?


「いや、瑞貴くんだからお願いしたいんだ」


しかし久我部長は、俺の言葉を遮って口を開く。

「私達は、ずっと美咲を瑞貴くんに任せきりだった。君がいてくれたから、美咲は幸せになれたんだと思う。育てていない私たちよりも、君の方が適任だ」


「いや……えっと……」


即答できずに、口ごもる。


「挙式に出席する人達も、君の仲間ばかりだろう? 型どおりにやらなくてもいいかと、さっき式場の方にお願いしてきたんだ」

「……は?」


――お願いしてきた……?


その言葉に、どう断ろうか考えていた俺の思考が止まった。


「え、それは……」

怪訝そうな声でたずねると、久我部長は申し訳なさそうな、でもそれ以上に確信めいた視線でにこりと笑った。

「事後承諾で、悪いね」

その言葉に、溜息が出た。


決定事項かよ……



「瑞貴」


仕方なく返事をしようとしていたところに、後ろから声をかけられて顔だけそちらに向ける。

そこにはさっきまで控え室にいたはずの真崎が、歩ってくるのが見えた。

「真崎さん」

半身ずらして、小さく頭を下げる。

真崎はいつもの甘やかな笑顔を浮かべて、美咲の両親の前に立った。


「久我部長、この度はおめでとうございます」

同じ様に母親の方にも頭を下げて、祝いを伝える。

恐縮するように両親が挨拶したところで、俺の方に向き直った。

「この後移動するレストランの事で、なんか田口と加藤が打ち合わせたいことがあるって探してたよ」

「あの二人が?」


美咲たちは挙式こそ教会で挙げるが、人数も少ないから披露宴は行わない。

その代わり、間宮さんの知り合いがやっているというレストランを貸しきって、食事会をやる予定。

田口と加藤は、その準備を間宮さんとやっていたんだけど。


「何で、俺?」

別に、何も口出すことなんてないけど――

真崎は俺の疑問を理解したのか、肩を竦めて首を傾げた。


とりあえず二人を探そうかと、視線を辺りに廻らせた時――



「……み、さき」


思わず、その姿に言葉が零れた。



介添えの佐和先輩と共に、花嫁の控え室からロビーに姿を現わした、今日の主役。


真っ白い、ドレス。

引きずる裾を両手で軽くあげて、俯きがちに歩いてくる。


それに気付いた控え室で待つ皆が、感嘆の声を上げながら美咲に手を振っている。

美咲はそれに答えつつ、不安の方が勝つのか、硬い表情でそれでも笑おうとしていて。




「わぁ、美咲ちゃん綺麗だねぇ」

隣で、真崎がゆっくりと呟いた。




――キレイ、だ


長く伸ばした髪を、緩く結んで左肩にたらして。

まだ、ベールをつけていないから表情がよく見える。

緊張しているだろうその顔は、まるで幼い頃発表会か何かの出番待ちをしている時のようだ。

動きが緩慢なのは、着慣れないドレスの所為か。



その顔が、ふとこっちを向いた。


「哲!」


緊張していた表情が、綻ぶように明るい笑顔に変わっていくのを、ただ見つめる。


戸惑ったような、複雑な表情だったのに。

俺を見た途端、キレイに笑う。


なんて、罪な笑顔だろう。

なんて、罪な女だろう。


そうやって俺を特別にするから、俺はお前から離れられない。



俺のものにならないお前を、きっと、これから先も想い続けるんだ。


恋愛感情じゃない、好き、に、いつか変わる時が来ても。


お前が大切なことは、きっと一生変わらない――






サブタイ 哲にとどめをさす話(笑

大分、哲、酔ってます。自分に。

私もなにやらどっぷり哲になって書いた感じ……


うーん、女々しくなっちゃったかな。少し、心配です^^;


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