それは楽しかった日々の終わり 新しい日への足踏み 1
真崎のお話が美咲の結婚式にかかってきてしまったので、アップします。
お礼SSで以前のせていたので、ご存知の方もおられるかと思いますが……
「よっ……と。これで荷物全部だな?」
「はい、全部です」
車の中に積み込まれた、ダンボールを数えて頷く。
課長はトランクのふたを閉めると、腰に手を当てて身体を伸ばした。
「じゃあ、明日な」
そのままの体勢で私を見下ろす課長に、小さく頷く。
「課長、寝坊しないでくださいよ。嫌ですよー、私一人で歩くの」
「それは、お前こそだろう。仮眠室出勤の際、どれだけ会議に遅刻していると……」
「あーっあーっあーっ。……じゃ、そういうことで!」
課長の言葉を思いっきり遮って、にっこりと笑う。
何も言うんじゃねぇ、という圧力をかけながら。
「分かった分かった。じゃぁな」
呆れた表情で腰から外した手で軽く私の頭を叩くと、課長は車に乗り込んで走り去っていった。
それを見送って、玄関へと向き直る。
「「「……」」」
「……」
玄関脇の窓ガラスからこっちを覗く三人の顔に、口元がひきつったのは仕方ないと思います。
長く息を吐き出して、玄関ドアを開ける。
そこには、真崎・田口・加藤の神奈川支社、企画広報部の面々。
ていうか、ここに住んでいる面々。
「ほーら、怒ったぞー。美咲」
そしてこの家の持ち主(親のだけど)、瑞貴 哲弘。私の幼馴染。
「別にいいけど、……楽しい?」
呆れた視線を三人に向けると、「楽しい」と返ってきました。
「だって、あの閻魔様の笑顔が見れるんですよ!?」
――田口さん
「言えるものなら、会社で自慢したいくらい!」
――加藤くん
「あのにやけ顔、鼻の下伸ばしすぎー」
――真崎
いや、まぁ……そりゃね。
だいぶ、無表情だけどね。
リビングに向かって歩きながら、肩を竦めて笑う。
「ご飯食べよ? 今日は頑張ったんだから、ね? 田口さん」
言いながら田口さんを見ると、片手を挙げて元気よく返事をする。
「田口、頑張りました!」
「って言ったって、助手的に頑張ったんだろー。明日からのうちの飯が、思いやられるよ」
加藤くんが額に手を当てて、小さく頭を振った。
そんな事ない! と言い合う二人を笑いながら、キッチンに入る。
そこにはテーブルに並べるだけになっている、料理の数々。
夕方から、田口さんと……たまに男三人が手伝いながら作った、独身最後のこの家での夕食。
もう、ばらばら。和食なのか洋食なのか中華なのか。
とりあえず、メインは餃子とローストビーフ。
他には海老のしんじょやら、シーフードサラダやらパスタやらグラタンやら……
って、もうこれはバイキングだね。
全員が好きなものを、全部作った感じ。
手を洗って腕まくりをすると、まだ言い合ってる田口さん達を呼び寄せる。
「早くご飯食べよ? 持ってってー」
「はーい」
ぴたりと言い合いを止めた田口さんと加藤くんが、わらわらとキッチンに入ってきてお皿をダイニングに持っていく。
最後にスープをお皿に注いで、準備終了。
エプロンをつけたまま、スープ皿をのせたトレーをダイニングに持っていく。
「早く食べよう、お腹すいたよ」
私の声に嬉しそうに返事をする田口さん達。
各々の席に、自然と腰を下ろした。
「いただきます」
真崎が言い出してそのまま習慣になった、全員揃った食事の時は全員で「いただきます」を言う事。
それから、食べ始める事。
おかわりは自分で注ぐ事。
用事が無い限り、勝手に席は立たないこと。
当たり前の事だけど家族ごっこにはちょーどいいでしょ? と、にっこり笑って真崎が決めた。
そんなことを思い出しながら、食べ始める。
それぞれ、好きなものを。
最後だから。
最後だから、と。
皆と話しながら、箸を動かしながら。
それでも、脳裏に浮かぶのはそんな言葉。
いつの間にか決まった、それぞれの席。
いつの間にか決まった、それぞれの役割。
食事を作る優先は、私→田口さん→加藤くん→哲→真崎。
夕方六時までに、夕食を家でとるか食べて帰るかメールで連絡。
掃除は、各々の部屋は自分で、共有スペースは休みの日に当番制で。
月に一度、庭掃除。
もっともっと、たくさんある。
皆と話しながらもいろいろ思い出していたら、真崎の声に顔を上げた。
「美咲ちゃん。この餃子、ストック作っていってね」
真崎が箸で掴んだ餃子を持ち上げながら言うのに、はいはいと笑って答える。
「餃子だけじゃなくて、他のおかずもストック作って冷凍庫に入れてありますから」
「私、手伝いましたよ!」
鶏肉を口に入れようとしていた田口さんが、主張するように手をあげた。
「田口さんが一番把握してるから、傷まないうちに食べちゃってね」
ぽんと頭を軽く撫でると、元気よく返事をする田口さん。
なんだか、えらい元気だなぁ。