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「どうしたの? 久我さん」
「え?」
その声に、顔を上げる。
斜め前に座る間宮さんが、私を心配そうに見ていた。
「なんだか顔が赤いよ? 風邪でもひいたのかな」
間宮さんの言葉に、一気に顔に血が上っていく。
優しい穏やかな物言いの、間宮さん。
いつも癒されていますが!
今日だけは……! 今日だけは、気づいて欲しくなかった!
私は慌てて両手を振ると、上擦った声で答える。
「いえっ、その、なんでもっっ!」
その声は、自分で聞いてもおかしくて。
どー考えても、動揺しまくりな声。
「んー? どれどれ」
隣から、斉藤さんの手がおでこに伸びる。
「別に熱はないみてーだけど?」
「いえっ、なんでもっ! なんでもないっ、ですっ」
斉藤さんの手から逃げるように、椅子を後ろに引く。
「久我?」
――っ
課長の声に、思わず立ち上がった。
「えっと、あの資料室! 資料室に行ってきます!!」
傍に置いてあった筆記具を持つと、私は企画室から逃げ出した。
――――――――――
残された部屋の中では、首を捻る間宮と斉藤。
そして美咲が途中で放り投げたスケジュールを覗き込む、課長の姿。
「なんだぁ? 久我、どうかしたの?」
斉藤が間宮を見ると、彼も首を捻るばかり。
課長はスケジュールを保存してパソコンの電源を落とすと、そのまま席に戻る。
「ま、久我がおかしいのは今に始まったことじゃない。ほっとけばそのうち戻ってくるだろ」
「まーた、課長。そうやって冷たくするから、嫌がられるんですよ」
苦笑い気味に斉藤が言うと、課長は一瞬目を上げて斉藤を見る。
「斉藤」
課長の視線に、首を捻る。
「なんです?」
そのまま課長は、パソコンに視線を移した。
「仕事しろ」
「――へーい」
肩をすくめてデスクに向かう。
これで話は打ち止めとなった。