11
美咲が企画室で座り込んでいる頃。
そこから出て歩き出した哲は、昼のことを思い出していた。
――――――
「瑞貴。お前、久我の事好きだろう?」
いきなり言われて、面食らった。
「あいつは言わなきゃ分からん女だぞ? どうせ俺もお前も男として見られていないんだ。言うなら早く言った方がいい」
気づかれてたのか――。美咲はちっとも気づかないのに。
「まぁ、お前が言おうと言うまいと、俺は遠慮なんかしないけどな」
その表情が、あまりにも余裕に見えて。
つい、何でそんな事――と、突っかかってしまった。
――だから、まだ子供だっていうんだよな。
年下の自分には無い余裕。
仕事も、頑張ってそう見せているだけで。
ビルから出て、後ろを仰ぎ見る。
まだ電気のつかない、企画室。
――課長に揺れても……か
自分で言った言葉に、苦笑い。
そんな余裕、どこにあるんだか……
今だって、動悸が収まらない。
もし課長が美咲に触れたらと思うと、気が気じゃねぇ。
本当は出張なんていきたくねぇんだけど。
まじめに仕事に取り組む美咲を、ずっと見てきた。
彼女に恥じる仕事だけはしたくない――
内心の葛藤を表情の下に隠して、翌日二週間の出張へと旅立った。