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「課長、おれ腹減ってるんで、がんがん食いますけどよろしくです」

「――あぁ」


いつもの居酒屋に瑞貴と上がりこみ、楽しそうにメニューを覗き込む奴を見る。

今日はテーブル席の方に客がたくさん入っているようで、一番奥の座敷に上がったというのに煩い声が響いてくる。



相談事……



瑞貴が朝に言い出した、相談事があるから夕飯を奢れと言われた時、すぐに理由を頭に浮かべた。

もしかしたら、久我に聞いているのかもしれない。

俺に、断ったこと。

そして……この瑞貴の感じだと……、久我はこいつに決めたのかもしれない。


その話を聞くのに、なんで俺がこいつに奢ってやらなきゃいけないんだ。

と、内心思ったけれどまぁいい。

四つも下の後輩に、奢らせるわけにはいかないしな。


それよりも、気にかかることが一つ。

久我のデスクが、なんか片付けられていく気がしてならない。

倉庫を片付けるついでだといっていたが……



瑞貴を選んだその罪悪感から、異動願いを出すとかそれだけは止めてほしい。

プライベートがこれで、ビジネスまで駄目になったら、さすがの俺も気が抜ける。

今、企画課から久我に抜けられたら、かなりの痛手だ。



目の前には、綺麗な顔をした男ががつがつとかっ込むようにカツ丼を頬張ってる。

顔のいい男は、何しても綺麗に見えるから不思議だな。

自分とは違う細い体躯で、自分とは違う社交的な性格の瑞貴。



考えても仕方ないと、そうは思うが


小さく溜息を落として、ビールを煽る。



あー、面倒だな。自分の事なのに、面倒くさい。

うじうじと悩むのは、俺の性格じゃない。



が。


久我の姿を思い浮かべる。



痩せてしまった、久我の姿。

その原因が、全部ではないにしろ俺にあると聞いた時。

さすがに、へこんだ。

へこむだろ、普通。



助けたいと思っていた相手が、自分の所為で悩んでいたなんてな。


だから、諦めてもいないし忘れるつもりもさらさらないけど、とりあえず距離を置こうと思った。

口の中を切ったというわりに、血の味もしない久我の唇。

嘘をついてでも俺を遠ざけたかったのなら、言うことを聞いてやることしか今は出来ない。


少し時間を置いて、距離を置いて。

いろいろな悩み事が少しでも解決できた後、もう一度気持ちを伝えようと思った。



なのに――



目の前の男を、じっと見る。


こいつに決めてしまったんなら、もう、俺が入り込む隙間はない。

ただでさえ、強い繋がりを感じる二人だというのに、思いが通じてしまったのなら、俺に付け入る隙はない。




って、こんな複雑な胸中だというのに。

「よく食うな、瑞貴」

カツ丼を食い終えた瑞貴は、いつの間に頼んでいたのか揚げ物の盛り合わせを箸でつついている。

この細い身体に、どれだけ入るんだ。

ちょっと限界を見てみたい気もするが。


瑞貴はから揚げを口に放り込んで咀嚼すると、飲み込んでから口を開いた。



「そりゃ、少しくらい美味しい思いしても、いいと思いますよ。俺」

「は?」

少し位って、充分だと思うが。

思わず聞き返した言葉に、瑞貴は机に箸を置くと息を吐いた。


「まぁ、こんくらいで許してやりますか」

「あ?」

つい、低い声が出て口を噤む。


こんくらいで、許す?


多分俺の無表情にも表れただろう不穏な空気を、瑞貴は軽く流した。


遠野です、ご覧下さりありがとうございました。

今日、短くてすみません。

明日、すこし長いのでよろしくお願いします。

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