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携帯をベッドサイドの机に放り投げて、両腕を伸ばす。

バキバキと身体の軋む音に、鈍ってきたなぁと呟きながら。



答え、でた。


あいつ、やっぱり覚えてたんだ。

忘れてなかったんだ。



昨日、居酒屋から帰る途中で聞いた、課長との顛末。

到底、信じることの出来なかった、美咲の本心。

問い詰めて本音を言わせようとした時に、あいつが言った言葉。



――あんな自分、もう二度と見たくないの。私には、無理。出来ない




あんな……が、どこに掛かってるかなんて、俺にとってはあの時しかねぇ。

親父さんに会って、逃げ出して。

閉ざそうとした心、それを止めて戻ってきた美咲。

だから、何も考えずに口から出た。


――でも……、それって……俺のお袋が原因なんじゃ……



お袋が余計なことをしなきゃ、あんなことにはならなかったんだから。

その時、俺は失念してたんだ。

美咲が、あの夜のことを覚えていないって言ったことを。


美咲は、ただ否定した。

何のことか分かっていて、その上で俺の言葉を否定した。


――良かれと思ってしてくれたんだから、おばさんのせいじゃないよ。関係ない



あの夜のことを覚えていなきゃ、言えない言葉で。



それに気付いたのが、ついさっき。

なんですぐ気づかねぇかな、俺。

課長と美咲のことで、頭が一杯だった。



お袋から託された事実を、課長に伝えようかどうか考えていたから。



美咲の行動は、言葉は。

全て、両親の離婚の時に作り上げてしまった壁がさせる行動。

だから、あいつが次にとる行動、なんとなく分かる。


それが、俺にとっても課長にとっても最悪な事だって分かるくらい。



でも、確証がなかった。

俺の推測だけで、課長に言うことができなかった。



だから、今の亨からの連絡、俺にとっては何にも変えがたいことで。

美咲が親父さんに、何もなくわざわざ連絡することはない。

出来るなら、今までだってやっている。

それをわざわざしたということは、あの夜のことを口止めするため。

もしかしたら、許す、と伝えたのかもしれない。

だから、もう気に掛けてくれるな、と


実際は、許しどころか罰を与える以上の切り捨て方なんだけど。




周りの事を思ってつく嘘は、思い遣りの範疇だと思う。

皆が幸せでいられるように、大勢に影響しない嘘は許容範囲だと思ってる。


でもあいつは――

自分を守るためって言うのもあるんだろうけれど、それ以上に皆の重荷にならないように頑張ってる。




「さて。課長をどう煽るかな」



課長がマジで美咲を諦めたかどうかなんてわかんねぇけど、あんな痩せちまった姿を見ていたら……それがもし自分の所為だと言われたら、とりあえず一度引くだろう。


もしかしたら、様子を見るつもりなのかもしれない。

普通の女なら、それでいいかもしんねぇけど。




相手は、あの美咲。


心ん中にしまいこんでる過去を、ひたすら隠して。

それから逃げるように、自分の歩く道を決めている。



だから。

あいつは、何か行動を起こすはず。

いい意味じゃなく、悪い方向で。

時間を置けばおくほど、多分、修復がきかなくなる。



課長を手助けするみたいで、なんかムカツクけど。


まぁ、いいさ。

幼馴染として、守るって言っちまったしな。


幼い頃から明るくてさばさばとした、姉御肌の美咲。

今の美咲は、隠したいものに怯えてばかりで。

俺は。

あの明るく元気な美咲の笑顔を見たいから。





「ったく、なんで振られ男がここまでやってやんなきゃなんねぇんだよ」




思わず情けない声と溜息が、盛大に俺の口から漏れた。





覚えてろ、美咲。


俺を騙した代償は、きっちり返してもらうからな?



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