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休暇から出てきて二・三日は忙しくバタバタしていたけれど、翌週になればそれも何とか落ち着いて。

今度は真崎から頼まれた書類のデータベース化に、没頭していった。

真崎が本社にいるのは今月末まで。

あと、二週間もない。

一週間休んだせいで手伝いに入ったのも遅くなってしまい、広報部から資料を持ち帰って企画室にずっと詰めていた。


意外と外回りに出るのも多い企画課、それでも誰かと二人になることはなくて。

ほっとしていた。

というよりか、哲や課長二人になることをさりげなく避けていた。

ラウンジに誘われても、何かしら理由を付けて断って。

この二人は、私の本音を見抜きそうで怖かった。


本当は全部覚えていること、その上で出した自分の答えを見つけて欲しくなかった。





「おーい、美咲。ラウンジ行かねぇ?」

水曜の午後、外回りから戻ってきた哲がドアからひょこっと顔を出した。

「あれ、お帰りー。私はいいよ、仕事詰まってるから」

即答すると顔を顰めた哲が中に入ってきて、自分のデスクに鞄を置く。

「またその返答かよ、お前ぇ俺の誘い断りすぎ。だいたいさー、こもってばっかじゃん。たまにゃぁ息抜きしようぜ」

一瞬、動きが止まる。

慌てたそぶりも見せずに再び動きながら、内心、緊張が走る。


哲はそんな私に気づいているのかどうなのか、コートも脱いで椅子にかけると財布だけ持って傍に来た。


意識して顔を上げずに資料に視線を落としながら、なんでもないように答える。

「別に、哲の誘いだから断ってるわけじゃないんですけど」

「あー、そうかい。美咲のくせに生意気な。ほら、行くぞ」

資料を持っていた右腕を引かれて、椅子から腰が浮く。

その勢いに身体が斜めに持ち上げられて、慌てて左手を机についた。


「ちょっと、哲。なんなのよ」

二の腕を掴んだまま、私を見下ろす哲。

「なんか、仕事に没頭しすぎ。少し息抜かないと、疲れるぞ」

ここんとこずっと残業してるだろ? と、掴んだ腕に力を込める。

仕方なく手に持っていた資料を机において、ちゃんと両足で立ってから哲を見上げた。

「あと二週間だけの仕事だもの。残業もそこまで。来月には落ち着くわ」

もういいでしょとばかりに引き抜こうとした腕が、再び強く握られた。



「――美咲、俺に嘘ついてないか?」



その声は、何か探るような声音が含まれていて内心緊張が走った。

嘘……? なんの? どれの?

「嘘? 別に何も――」

それを表に出さないように、口元を微かに上げる。

そのまま溜息をついて、哲の腕を軽く叩いた。


「分かったわよ、行きますよ。まったく、こんなにでかい図体で拗ねないでよ」

「美咲」

再び私の名前を呼ぶ哲に、握った拳を見せる。

「私の得意技、発動してもいい? 久しぶりだわ~」

にやりと笑って見せれば、哲は諦めたのかゆっくりと腕から手を離した。

「……それは勘弁。ほれ、行くぞ」

その表情は、さっきとはうって変わっていつも通りに戻っていて。




連れ立って、企画室を出た。


哲の横を歩きながら、さっきの言葉が頭の中をぐるぐると回る。



――俺に嘘付いてないか?



やばい、やっぱり見抜かれそうだ……

どうしよう。何か聞かれたら、どうやってごまかそう。



ラウンジに行くと、何人かばらばらと座っていて。

いつものように、後ろに並んでいる自動販売機でカフェオレを買って窓際の席に腰を下ろした。


頬杖をつきながら、窓の外を見る。

夕方近いこの時間は、既に夕焼けが迫っていて。

空が、濃いオレンジ色に変わりつつある。

それをじっと見上げながら、内心、哲が口を開くのを怖がっていた。


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