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13

階段を上がった目の前のドアに飛びつく。

誰の部屋でも、どの部屋でも何でもよかった。

とにかく、二人から逃げたかった。



部屋の中に身体を滑り込ませて、ドアとその鍵を閉めて背中をつける。

途端、ドアを叩く振動にそこから身を離した。



「美咲ちゃん? 美咲ちゃん、ここを開けて。落ち着いて話しましょう? 私もいるから、ね?」

「美咲、悪かった。本当にごめん、頼むからここを開けて」

口々に私に向けられるその言葉を聞きたくなくて、両手で耳を塞いで部屋の端まで後ずさる。

そこには、ベランダへ続く窓とベッド。



「美咲ちゃん!」



刺すような叫び声に、身体が震えてそのままベッドに頭を押し付けた。

途端、二人の声が少し遠くなって。

それでも、声と物音に身体が竦む。

頭の中は真っ白で、痺れたように頭痛が襲って。

息を吸おうにも、上手く吸えない。





上手くいかなくなった両親は、私を支えに偽物の家族を続けてきた。

そして私の為に、長い間苦しんできた。




好きにすればいいじゃない

私を、捨てたくせに

もう、二度と会わないって約束したはず

縁を切ってくれと私は頼んだはず


大切なものを作れなくなるくらい、私を壊しといて




今更、許しあえ? 

許しあわないと生きていけない?



あんた達の子供だった久我美咲は、あの時消えた

私は、ただの久我美咲

何も関係ない!





息苦しくなって、顔を上げる。

ドアの向こうでは何か言っているようだったけれど、その言葉は頭に入ってこない。



大切な、人だった。

大切な人達だった。

大好きな、大好きな私の両親。


でも、それを壊したのは両親。

私じゃない……

でも、私のせいで二人は早く幸せを手に出来なかった。



高校卒業するまで、知らない内に勝手に私に縛られていて。

卒業、そして進路が決まるまでは家族でいようと、勝手に決めて。

卒業と共に、二人は自分の幸せを掴んだはずなのに。




それからも、私に縛られていたの?

私が、あんな態度をしたから?

笑って、二人を送り出せばよかったの?

自分を殺して、どちらかについていけばよかったの?





知らない人を、親と呼べばよかったの?





「誰か、助けて……」



ねぇ、誰か答えをください……

私は、どうすればよかったの……?






ベッドに手をつけば、いつも隣にいてくれた哲の匂い。

幼い頃から、変わらない存在。

でも、私は哲の望みを叶えてあげられなかった。

それでいい、家族として一緒にいようって言われたけれど。



ベッドから身体を離して、哲の匂いから逃げる。

甘えちゃいけない……、また、この子を私に縛り付けてしまう――



ゆっくりと立ち上がると、窓を開けてベランダに出た。

冷たい空気が、全ての匂いと温もりを奪い去っていく。

窓を閉めて、そっと硬質な冷たいそれに触れた。




私が大切だと思う人は、私のために苦しんでる。

両親も、哲も……





「――課長……」


私の、大切な人。

今、私が大切にしたい人――




コノヒトも?



いつか、私が苦しめるの?



いつか、私を捨てていくの?







――みんな自分に縛り付けて……あんたなんか、いなくなればいいのに





思い出す柿沼の言葉に、頭が……心が……悲鳴を上げる




「もう……、消えてしまいたい――」





私がいるから、幸せになれないのなら。



存在を、消して、しまいたい――







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