表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/219

12

まだ何か言おうとする哲をおばさんは最強の微笑で退け、私も皆に手を振って後から行きますと送り出す。



私はいつになく……じゃないね、いつもどおりだけど変なタイミングで強引なおばさんの行動に、腑に落ちないものを感じたけれど。

おばさんの微笑みに、勝てるものなどございません! ←違う意味でね(笑

ま、プレゼントを渡すはずだったから、ちょうどいいかも。


そう思い直して、そばにあった鞄を手に取った。


「おばさん、これ私からお二人に。色違いなので、どちらか好きな方を使ってください」

透明フィルムとレースで綺麗にラッピングされたそれは、万年筆。

二人とも仕事で文具類を多用するだろうから、贈り物なら実用的でいいものをと思って買ってきた。


「ちょっと、入学祝みたいかもしれないですけど」

買う時に、のしをつけるか聞かれたくらいだから。

おばさんは嬉しそうな表情で、それを私の手から受け取ってくれた。


「ありがとう、美咲ちゃん。仕事の時でも持っていられるものを選んでくれたのね、最高の贈り物よ」

にこにこと柔らかい微笑みを浮かべるおばさんは、そっとそれを胸に抱く。

「……なのに私は、あなたにとても酷なことをするかもしれない」



――え?



いきなり変わった表情と口調に、身体の動きが止まった。


酷なこと? って……?


おばさんは少し辛そうな、それでも曲げない意志をその目に浮かべる。

「おばさん……?」

「私は、……私が口を挟める問題じゃないことは分かっているのよ。本当は」

おばさんが、口を挟めない……コト?

「でもね、私はしばらくここからいなくなるから。どうにかしてあげたいと、思ってしまったの。美咲ちゃんにも……」



後ろで、ドアの開く音が聞こえる。

そこにいるのは……、もしかして――

目を見開いたまま、おばさんを見つめた。



「利明さんにも」



「な……んで……?」

口から零れた言葉に、後ろに立つ、久我利明……父親だった男が答える。

「すまない、こうでもしないと話せない気がして。瑞貴さんがここから越してしまう前にと、無理に私が頼み込んだんだ」

「いえ、私もこうするべきだと思ってましたから。連絡先も分からなかったので、遅くなってしまいましたけれど」


そう言って、私の後ろへと視線を向けるおばさんを見つめ続ける。


連絡先……、引越しの連絡を取りたいって言ってたのって……ホントはこの為……?



「……おば……さ……――」



ひくっ……と、喉の奥が痙攣する。


「美咲ちゃん、もう九年経ったわ。……いえ、あなたにとっては、まだ、なのかも知れない。でもね、このままじゃ誰も幸せになれないし、前に進めないのよ」



誰も、幸せになれない?



おばさんは、視線を床に落として俯いた。

「誰も、幸せになってないの。二人とも、あなたに許してもらいたくて――」



許してもらいたくて?



次に続く言葉が、頭の中で浮かび上がる。


息が……、息が止まりそう……

息が――



真っ白に霞んできた脳裏に、課長の後姿。

そのコートを掴む、自分のてのひら。

大切な、……タイセツナヒト――


「ずっと、独りでいるのよ」




掴んでいたコートが、掻き消える――


何も、思い浮かべられない。




「あなたが大切だったから、あなたを傷つけてしまった事をずっと悔いていて」

そう呟くおばさんは、心配そうな表情だけれど言葉は止めない。



私を傷つけたから?

私が傷ついたから、それに縛られて幸せになれなかった?



ぐるぐると、いろんな言葉が頭を巡る。





――くさいけどさ。こーいうのを、絆っていうんじゃねーのかな


哲……


哲の言葉を思い出して、涙が浮かびそうになる。



哲、これも、絆?

これも、絆っていうの?



ねぇ、やっぱり違うよ。

そんなんじゃないよ――




「せめて、謝らせてあげて?」 



アヤマル?



「許しあわないと、人は生きていけな――」












「や……、いやぁぁぁぁっ!!」











意識が飛びそうなくらいの叫び声。

自分のその声に弾かれたかのように、目の前に見えた階段を駆け上がる。


「美咲ちゃん!?」

「美咲!」


後ろで上がる声も、今は届かない――



聞きたくない、知りたくない!

なんで? やっと、自分も幸せになっていいと思えたのに、なんでいまさら――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ