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――なんだろう、このいや~な雰囲気は。


昼休憩を終えて企画室に戻った私の目に映ったのは、哲が課長に声を荒げている姿だった。

ドアを開けた途端その声は消えて、普段通りの課長と少しイラついた顔の哲に別れて席についてしまったけれど。


なんか、来ちゃいけなかったような。


でも、私もここが職場なもんで――

なんでこういう時に限って、斉藤さんも間宮さんもいないのーっ?



そんなこんなで既に夜。

私は新しい企画を立てることを課長に伝えて、資料室と企画室を行ったり来たりしていたけれど。

なんといっても、哲は机が目の前。否が応でも視界に入る。


時間がたつにつれて表情は戻っていったけれど、一体なんだったのか気になる。

外面だけはいいのに……



それでも黙々と仕事をしている二人に、やっぱり息が詰まって仕方ない。

なので、こっそりと資料室に行く振りして夕飯に行ってきた。


確か今日は二人とも帰るはずだから、もう少しの我慢で開放されるはず――


本当は何があったか聞いてみたいんだけど、哲が他人に対して怒ったところって見たことなかったから。

その理由を聞くのが、怖い気もする。




いかにも資料室にいましたって顔で企画室に戻ると、――誰もいなかった。


「なんだ……ていうか、よかったっていうべきだよね」


構えていただけに、気が抜ける。

帰るんなら、声かけてくれてもいいのに。

そのまま資料を机の上に置いて、ため息をつく。


なんというか、疲れたな――


椅子に座って、机に両肘を突いてあごをのせる。

「一体、何だったのかなー」



――その時

パチンッという音と共に、部屋の電気が消えた。

「え?」

びっくりして椅子から立ち上がる。

停電?

思わず窓の方を見ると、眼下には街の明かりが見える。


「――美咲」

呼ばれた声と、後ろからまわされた腕の力に硬直する。

「え……? 哲?」


今の声は、哲――

――だと思うんだけど、これは一体……


身体の前にまわされた腕に触れる。

「――哲、だよね?」


私の名前を呼んだきり、声を出さない哲。

それでも、その腕は離れない。

なんだろう、何があったんだろう。



脳裏に、昼の哲と課長の姿が浮かぶ。



よっぽどのことを言われたのかもしれない。

そういえば課長に哲の様子聞かれたし、会社から何か辞令が出たのかも――



「哲? 何かあったの? 嫌なことでも言われた?」

「――言われた」


やっと声を出してくれたことに、ほっとする。


やっぱり、何か言われたんだ。

確かに昼はおかしかったもの。


触れていた手で、軽くその腕を叩く。


「言うだけでも、少しは気が晴れるよ?」

後ろで、哲が少し動いたのが伝わってくる。

「ほら、おねーちゃんに話してみなさいな――」


哲は腕に触れていた私の手を掴んでそのまま身体にまわすと、片方の手で強制的に顎を持ちあげて上へと向かせた。


――え……?

何が起きたのか、突然すぎて分からずにそのまま哲を見上げる。

「――美咲は、俺のもんだ」


薄暗い部屋の中、苦しい体勢で見た哲は。

怖いくらいに、目が鋭くて。


突然の事に固まっていた私の唇を、ゆっくりと塞いだ。




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