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「私には、もったいない幼馴染ですよ。哲は」

あれだけ私の不甲斐なさで傷つけたのに、普通に接してくれる。

私を心配してくれる。

いまさらながら、どれだけ大切な存在なのかを実感する。



そんな私の様子に、真崎はニヤ笑い。

「ホント仲がいいことで」

それに斉藤さんまで頷いて笑ってる。……苦笑い気味に。


恐る恐る課長を見ると、無表情です。

でも、なんか、目が怖いから怒ってる気がしますけれど。


微妙な空気が流れ始めたとき、それを払拭するような明るい声が真崎から発せられた。

「あ、そういえばここで話をオープンにするけど。加倉井課長、僕、今度新規部署作るんですよ。それに美咲ちゃん誘ったら、振られちゃいました。なんか課長に負けたみたいで、むかつくんですけど」


「「は?」」


声を出したのは、私と斉藤さん。

課長は声も出さずに、ただ真崎を見ている。



真崎は私たちの状態にはお構いなしに、話を続けた。


「てーことで、お願いがあったりして」

「って、どういうことだ」

斉藤さんが突っ込むけれど、真崎さんはそれを無視して課長に対して頭を下げた。


「越境なのは重々承知でお願いします。、私が本社を出るまでの一ヶ月間、久我さんに仕事を手伝っていただきたいんです。本人、企画課双方に負担をかけてしまうと思うのですが、ご了承いただけませんでしょうか」


私と斉藤さんは、真崎さんのその態度に目を丸くして。

課長は視線を天井に一瞬向けて、すぐ真崎に戻した。


「あぁ、いいぞ」


ほとんど即答の状態。

真崎は礼を言うと、正座に変えていた座り方を崩す。

「よかったー、これで美咲ちゃんを堂々と独り占めできる」

語尾にハートマークでも付きそうな言葉に、見直しかけていた気持ちが一瞬で萎えました。


「真崎さん、そんな話し方も出来たんですね……。いつもそうしていればいいのに」

「肩こるから、嫌だ」

そこかよ……


いつもそんな話し方なら、年相応にも新規部署立ち上げを任されたっていうのも納得できるのに。


もったいない、と内心呟いていたら課長に呼ばれた。

顔だけ向けると、仕事モードの課長と目が合う。


「企画してる商品は、製造に入ったよな? それ以外に急ぎの用がなければ、真崎の手伝いをメインでおこなってくれればいい。精神的に面倒くさそうだが、ま、がんばれ」

あぁ、分かってらっしゃる。

そうそう、真崎さんの相手は精神的な方が疲れると私も思います。


真崎は課長の言い方が気に食わなかったのか、口を尖らせてじっと見つめた。


「いいもんね、美咲ちゃんに僕のことも課長って呼んでもらおうっと。加倉井課長と同じ呼び名だもんね。ざまー」


「って、いったい何がざまーなんだ?」

「意味わかんない」

斉藤さんと一緒に、真崎を冷たい目で見ていたら。

真崎は、ふふんと口端を上げた。


「美咲ちゃんは加倉井課長のこと、課長としか呼ばないもんね。加倉井も宗吾もどっちも付かずに。ほらー、今までは加倉井課長だけで特別っぽかったけど。僕もそう呼ばれたら、加倉井課長はその他大勢に分類されてしまうわけさ」


「くだらないこと考えるなぁ、お前って」

斉藤さんは呆れ顔で、グラスのビールをあおる。

うん、確かに。くだらない……


「ふふ、精神的攻撃。斉藤も美咲ちゃんも甘いな~、そういった細かいところを恋する男は気にするもんだよ~」

「うぇ。恋する男って、課長の事? ちょ、やめろ真崎。似合わなさ過ぎて、眩暈がする」

「……」

斉藤さんに、無言で同意。


「あはは、だって。課長ってば、かわいそうだね」

真崎が課長に話を振れば。

無表情で私たちの話を聞いていた課長が、ビールを一気にあおった。


「新規部署って、あれか? 斉藤と企画を一緒に進めてたときに話が出た、企画と広報をくっつけた部署を作りたいって言ってた奴?」

「あら、話し流された。それですよ、加倉井課長。ホント僕の相方に欲しかったんだけどなぁ、美咲ちゃん」

「久我、よく断った」


即答する課長の言葉に、思わず噴出す。

「よく分からないけど、褒められましたよ。斉藤さん」

斉藤さんは、そりゃーな……と溜息をついた。

「これ以上企画課の人数減ったら、俺達家に帰れなくなっちまうよ。やっと瑞貴が慣れてきて仕事振れるようになったんだから」

「分かっちゃいますがいなくなったら寂しいとか、そんな言葉が欲しかったですね」

ま、いーけど。

「確かに、企画課って人数少ないよね。いくら少数精鋭とはいえさ、事務仕事のみの社員がいてもいいもんだけど」

「事務仕事?」

なんだそれ、と呟く斉藤さんを見て、真崎さんの言いたいことに気付く。


「あぁ……倉庫とか資料室の管理……、ってことですね」

真崎さんに問うと、その通り、と笑って頷く。

その途端、斉藤さんが私に向かって両手を合わせた。

「久我! 代わりに頼む!」

気付いたか。

「確かにあの管理は……っていうか、斉藤。お前管理してないよな。あれ」

「そりゃあ……、してないっちゃーしてないかなー」

開き直ったかのような斉藤さんの言葉に、課長は呆れ顔。

「久我に精一杯、ごまするんだな」

「えっ! 私やるの決定ですか?」

課長に視線を向けると、仕方ないだろ、と呟く。

「斉藤にやらせても、汚くなるだけだ。真崎の手伝いが終わってからでいい。頼む」

頼む、とかいいながらビール飲まれると、頼まれている気がしないんですがね。


まぁ、資料室もぐちゃぐちゃだったからなー。

「じゃぁ、来月辺りから始めます」

諦めて、肩を落とす。


整理は好きだけど、量が半端ないんだもの。

課長はグラスをテーブルにおいて、喜んでいる斉藤さんを指差した。

「豪勢なもの、奢ってもらえ。ここぞとばかりに」

「はい!」

片手を挙げて元気よく返事をすると、斉藤さんが少し情けない顔で、ほどほどにしてくれよと呟いた。



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