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てのひら-1

――――――――――――


幸せを 望まないわけじゃない



人を 信じたくないわけじゃない



きっと 誰よりも手を伸ばしてる




伸ばして 伸ばして



伸ばしきったその手には――



  なぜだろう



        いつも 何も 残らない――――――――







――――第九章 てのひら








*1



年が明けて、会社も始まり。

ばたばたと浮き足立っていた最初の一週間も過ぎれば、いつも通りの雰囲気が会社を包む。


年末にいろいろとあったけれど、それでも時間だけは前に進んでいくもので。

哲に言われて課長に対する気持ちと向き合おうとしていた私は、多少なりとも自分の心の変化を望んでいた。



素直に、相手を信じる努力。

素直に、相手と向き合う努力。



今までずっと自分から逃げていたから、難しいかもしれないけれど。

それでも、頑張ろうと思う。

哲が、私のために頑張ってくれたんだから。





一月七日

夜、真崎のいる広報部を覗いてみた。

ブースの一番奥、真崎のいる小会議室だけ電気がついていて。

年末に見たような風景に、思わず笑みが零れる。

ブースを縦断して、ガラス戸を叩いた。


ノートパソコンを見ていた真崎は、顔を上げて私を認めると笑みを浮かべてドアを開けてくれた。

「そろそろ来る頃だと思ってたよ、美咲ちゃん」

促されるままに、椅子に座る。

真崎が壁際にあるポットからカップにお湯を注ぐと、紅茶の香りが漂ってきた。


真崎はカップを私に手渡すと、目の前の椅子に座る。

そして、肘をついて口元で指を組んだ。

「あーあ。僕にとっては、いい返事じゃないみたいだね」

その言葉に、頭を下げる。

「すみません、せっかく誘ってくださったのに。あの、私、まだ企画課で仕事したいと思います」


真崎の歓迎会の時に、誘われた広報企画部への異動。

それの返事が、今日の約束だったのだ。


真崎は少し残念そうに溜息をついたけれど、私を見て笑ってくれた。

「僕は残念だけど。でも、美咲ちゃんがそうやって笑ってるなら諦めるかな。何か悩み事でも消えたの? とても、すっきりした表情をしてる」


「……鋭いですね、真崎さん。でも、その通りなんで頷いておきます」

にっこりと笑って紅茶を口に含む。

真崎は驚いたように、口をあけた。

「うわ、美咲ちゃんらしくない素直な言葉だねぇ」

おい、どんだけ私はひねくれ者なんだ。


真崎はくすくすと笑いながら、手元の書類を一枚、私の方に差し出した。

カップをソーサーに戻して、それを受け取る。

そこには五人の名前と所属部署、広報企画部の内容が書いてある。


「……管理課から二人も引き抜くんですか? 大変そうですね、残された人たち」

「そこ突っ込むー? 仕方ないでしょ、僕が欲しいと思ったのこの子たちだけなんだから」


困ったような笑みを浮かべて、真崎はノートパソコンに向き直る。


私は再び、書類に視線を落とした。


商品管理課から、私の二期下の田口 佳苗と加藤 悠斗。

営業から、私の三期上の内藤 数馬。

広報から、真崎と同期の砂原 歩と、私の一期上の木田 章。


広報は知らないけど、管理課の二人と営業の内藤さんは知ってる。

三人とも仕事ができるのはいうまでもないけれど、仕事への姿勢と性格が新規部署に向いているというのが、第一印象。



「管理課と営業の三人しか知らないけれど、前向きな人を集めた感じですね」

キーボードに指を走らせていた真崎は、満足そうに頷く。

「そうでしょ? 仕事も大切だけど、新しく何かを始めるには、前向きな性格が一番大切だからね。何があっても最初から諦めない、どうせならやって失敗してやるーって性格を集めました」


「あはは、そんな感じですね」


田口さんと加藤くんは一緒に仕事をしていたから、よく知ってる。

“できません”って言う言葉を使いたがらない、負けず嫌いな二人だった。


「でさ、ホント申し訳ないんだけど、僕が神奈川に移るまで少し手伝ってくれないかな。紙媒体の資料を、データ化したいんだ」

けど、手が足りなくて……と両手を挙げて降参の体制をとる。

「構わないですよ、ホントはもっと早く返事をするべきだったのに先延ばしにしていただいてたんですから」


真崎は礼を言うと、背もたれに体重をかけた。

「あー、やっぱり残念。美咲ちゃんで遊べると思ってたのに」

「そこですか!」

「うん!」


……無邪気に返されてしまった声に、諦めて溜息をつく。

「あ、そうだ。真崎さん、私、明日マーケティングの打ち合わせで水沢さんのところに行ってきますね」

言うのを忘れていたことに、今気付いた。

ばたばたしてて、頭から飛んでたなー


真崎は頷いて、思い出したかのように後ろのスチール棚からファイルを一つ出した。

「水沢くんとの打ち合わせは聞いてるから、大丈夫よ。あとこれ、以前斉藤と組んでやった時の企画の報告書。勉強になると思うから、一通り目は通しておいて」


差し出されたそれを受け取りながら、なんとなく微妙な表情を浮かべてしまった。


間宮さん達に聞いた話だと、このファイルを探しに倉庫に来て私を見つけたらしい。

見つけてもらって嬉しいのかよく分からないけれど、なんで斉藤さんはこれを倉庫においておいたのやら。


「あ、斉藤に気をつけなー。倉庫の整理、美咲ちゃんに押し付けそうだよ」

「え、あの部屋ですか?」

うんざりしてしまったのは、否めない。

資料室の片付けも、仕事の合間に進めて二週間は掛かったんだから。


「ま、押し付けられないように気をつけて。とりあえず、企画課の仕事が手すきになったら、僕のとこに来てくれる? ここを出るまであと一ヶ月、確実に連日残業だから」

「え、連日残業ですか? 体調、崩さないでくださいよ」

本気で心配になる。

確かによく見れば、少し痩せたような気がしないでもない。

最近あまり顔を見なかったのも、この仕事のせいだったのか。


真崎は少し驚いたように口を噤むと、瞬間笑い出す。

「美咲ちゃん、ホントどうしたのさ。天変地異の前触れ? すごい素直になったもんだねぇ。」



真崎の言葉に立ち上がって、そばに行く。

首を傾げている真崎を満面の笑みで立ち上がらせると、流れるような動作で私の拳が奴の腹に吸い込まれたのは、言うまでもない。




すみません、更新遅くなりました。

そしてストックもほぼなくなってしまい……

あはははは……若干壊れ気味です(笑

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