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「哲……、やめ……」

何とか出した声は、自分の声とは思いたくないほど、掠れた女の声だった。



哲は、動きを止めない。

その唇は、首筋から下りていく。

もう一度名前を呼ぶと、哲は顔を上げて私を見た。



「……嫌だったら、突き放せ」



合わさった視線に、心臓が止まりそうになる。

声に……表情に、力の抜けた両手で哲の頭を抱きしめた。




「美咲?」

怪訝そうな、哲の声。



……なんで、私、気付かなかったんだろう。


それは、イラつきが含まれているけれど。

「おい……、美咲」

でもよく聞けば、この子の本音が見えていたのに。




「ごめん、哲」




私の言葉に、哲は少し肩を震わせた。

「何であやまんの? お前、俺に襲われてんだ……」

「じゃあ、なんでそんなに泣きそうな顔してるの?」




声も、表情も、その態度も

泣いてる

涙はないけど


――――泣いてる





「泣いてなんか――」

「哲」

哲の声を、遮る。

「ごめんね」

もう一度、両手に力を込める。

「ごめん……」











しばらくして、哲の手が私の手を掴んで頭から外した。


「……お前は、残酷だな」

その言葉に、心臓が音を立てる。


顔を上げた哲は、苦しそうな顔で私を見下ろした。

「俺を、突き放してくれない」

「哲……」

「俺を、嫌ってくれ。頼むから。俺を……」


それは、出来ない――


「……哲、ごめん。それは、無理。出来ない」


私の、唯一の……


「俺を、恋愛対象には見れないの、もう分かってるんだろ? お前にとって俺は、……唯一の家族、なんだろ?」

苦しそうに、……泣きそうに哲は言葉を続ける。



「――頼むから、俺を拒絶して」



目じりに溜まり始めた涙を堪えるように、顔が歪む。

ここで泣いたら、卑怯だ。

「私が、哲を、追い詰めた。……本当に、ごめっ……」





あんなこと、したくなかったよね?

あんなこと、言いたくなかったよね?




――お前の気持ちなんて、知るか――……なんて。




捻くれた性格でおもてには見せないけど、ずっと私の事を考えてくれていたのに。

両親に捨てられた私の心を、守ってくれていたのに。




「私なんて、いなくなればいい――」




消えてしまいたい




縛り付けるだけ縛り付けて、望むものはあげられない。

私の存在自体が、卑怯だ。







哲は目を見開いて頭を振ると、私の頬に手を寄せた。

「……違う、違う美咲。そうじゃない、そうじゃないんだ。俺が……ただ、俺は――」

その指は、ゆっくりと目の下を辿って。

堪えていた涙が、哲の指に絡まる。




「俺は、お前が、好きで」


大切で……


「小さい頃からお前だけを見ていて、高校も会社もお前を追いかけて。ずっとそばにいたくて……」


一度零れたら止まらなくなった涙を、哲はゆっくりと指で掬い取る。


「ずっと、お前だけに向けていたこの気持ちを――自分で消すことが出来なかっただけで」



だから――





「お前に壊して欲しかっただけなんだ」





俺の、お前に対する、恋心を――



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