6
「本当は今日も家に戻るつもりだったんだけど、昨日課長の展示会に付き合ったら面白い素材見つけてね? ちょっと新しい企画立ててみようかと思って。たぶん、今日は仮眠室泊まり」
夜が外食になりそうだから、時間もあったし昼はお弁当を作ってきたわけですね。
「仕事熱心ねぇ」
加奈子の言葉に、強く頷く。
「だって、いつまで企画課にいられるかなんて分からないじゃない。いるうちに、やりたいことやんないと」
そうだ。
いつ企画課から飛ばされるかなんて、分かんないもの。
やれるだけやって、異動って言われても後悔が少ないように。
「いい心がけだな」
「「「え?」」」
声がした方を三人で一斉に振り向く。
「加倉井課長――」
手に何か書類を持った課長が、ひょっこり顔を出す。
来るはずのない場所にすごい似合わない人が立っていて、思わず三人とも呆けてしまったらしい。
課長は眉をひそめると、哲を見る。
「瑞貴、お前に用があるんだ。ちょっといいか?」
「あ、はいっ」
名前を呼ばれて我に返ると、哲は返事をしながら立ち上がった。
課長は物置の向こう側に歩いていきながら、哲に持っていた書類を手渡す。
それを見た時、哲が複雑な表情を浮かべていたのをその姿が見えなくなるまで私は見つめていた。
「加倉井課長、よくここに瑞貴くんがいるってわかったね。ちょっとびっくりしちゃった」
「ホント。でも哲に何の用だろう」
そのまま屋上を出て行ってしまったのか、遠くのほうでドアの閉まる音が聞こえた。
加奈子は首を傾げながらペットボトルのふたを開ける。
「戻ったら聞いてみれば?」
「うん……」
そういえば、昨日、課長のお誘い断って走って逃げたんだっけ。
なんか、哲の様子が気になって忘れてたけど。
朝から顔つき合わせてるのに、昨日の事について何も無い。
――これで、お前のことが好きって……言われなきゃわかんないっていうの。
逆切れなのは分かってるけどさっ
一つため息をつくと、そのまま視線をお弁当に戻した。