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絶対、哲、話を聞いて責任感じちゃったんだ。
焦る心と比例して、心臓が早鐘を打ち出す。
上階からはヒートアップしている柿沼の叫び声が、響いてくる。
「久我先輩久我先輩、皆して一体なんなんですか?! そんなに、あんな人がいいって言うんですか?!」
あんな人……、あんたに言われたかないよ……
いちいち、柿沼の言葉が頭に響く。
そして、思い出す。
三日前の、柿沼に最後に言われた言葉。
――皆、自分に縛り付けて――
思い出して頭を振ったら、課長が足を止めて私を見下ろした。
静かにしていろと言うような視線に、上を振り仰ぐ。
丁度五階の非常階段のドアが、横に見えた。
私たちより半階上――五階と六階の間――の踊り場にいる哲たちは周りが見えていないのか、五階に上がる階段に隠れている私達に気付かないようだ。
課長の横から、そっと顔を出す。
階段の上から、こっちを見下ろす柿沼の姿。
その隣には、俯いたままの座り込んでいるのか宮野さんがいる。
哲はこちらに背を向けて立っていて。
目の前の柿沼に集中しているのか、私に気付いていない。
「俺が、一方的に美咲を好きなだけだ。お前に関係ない」
……哲……
哲の言葉に、思わず目を瞬く。
うやむやにしてしまっている、告白の答え。
思わず顔を歪めて唇をかみ締めると、ふっ……と柿沼の視線がこちらを向いた。
「……」
私の存在に、柿沼が気付く。
驚いたように目を見開いた彼女は、口端をあげて私に向かって微笑んだ。
「――おい?」
いきなり微笑んだ柿沼に、怪訝そうな哲の声。
柿沼は哲を見ながら、ゆっくりと階段をおり始めた。
「私には、ただ、彼女が大事なものをとられたくない子供にしか見えませんけど?」
――こども……
哲に言っているようで、実は私に向けられていて。
課長の横から抜け出して、立ち上がる。
驚いた課長が私を見上げたのに気付いたけれど、知らない振りで階段を上がり始めた。
だって、これは哲にじゃない……。
私に向けられている言葉だから。
「加倉井課長とも仲がよくて? 哲弘先輩とも仲がよくて? 真崎先輩とも仲がよくて――、一体何様なんですか?」
――なに、さま……
ゆっくりと降りてきた彼女は、私の数段上で足を止めた。
「……お前、何を言って……」
振り向いた哲と、目が合う。
「美咲――!?」
「後悔、すればいいのよ」
驚いたように目を見開く哲と、動き出した柿沼。
「……なっ」
哲から視線を柿沼に戻したのと、身体が宙に浮いたのは――同時だった。
――あぁ、これで……また哲を……私に縛り付けてしまうのかな――




