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「なんとなく哲の様子がおかしかったので、問い詰めてやろうと探し中です」
「は? 瑞貴?」
「とりあえず今は急いでいるので、静かにしておいてくださいね?」
「あいつ、非常階段にいるのか?」
「いえ……、ただのカンです」
そしてそのカンは、さっきからことごとく外れているんですが。
なんだか腑に落ちない表情を晒している課長を尻目に、非常階段のドアをゆっくりと開けた。
後ろでは、課長の大きな溜息。
「……お前達は、本当に仲がいい――。……まったく、俺を焦らしてくれるな」
「――」
課長の言葉に叫ぼうとした口は、再び手で押さえられそのままドアをくぐって中に入る。
課長は音の鳴らないようにドアを閉めると、私から手を離しながら人差し指を口元に当てた。
うぅ、多分、今顔は真っ赤だよ!!
あぁ、まっかさー!!
悔し紛れにそっぽ向いて階段を上ろうとした時、上階から声が聞こえた。
動きを止めて、課長と目を合わせる。
首を傾げつつ、ゆっくりと階段を上り始めた。
声は聞こえるけれど、言葉がまだはっきりしない――
男性と女性、少なくても二人以上はいるみたいだけど。
二階を経て三階。
だいぶ、足にきています。
哲じゃないけど、運動不足は否めないな。
ほとぼり冷めたら、私も非常階段使う派になろうかしら。
そろそろ脇が痛くなってきたなぁ、とおもいつつやっと四階。
ふぅ、と小さく息をついた時、女性の言葉が叫び声に変わった。
「そんなの、久我先輩が悪いんじゃないですか?!」
突然聞こえた、叫び声。
え……、私?
上の階から聞こえてくる、その声は……。
柿沼?
「私は知りません!」
柿沼だ、やっぱり。
何、喧嘩してる……?
ていうか、“私”が原因で柿沼と喧嘩してるのって……
「分かってるんだよ、お前が美咲にしたことくらい」
その声に、頭から血が引いていく感覚にそばの手すりを掴んだ。
やっぱり、哲――!
ばれたんだ、やっぱりばれたんだ。
あの時間に抜け出したのは、定時に帰る柿沼を呼び出したか待ち伏せしたかで。
私の頬は、確認のために見たとかそういう感じ……
とにかく、止めなきゃ――!
駆け上がろうとした私の腕を、課長が掴んで止める。
顔だけ向けて睨み付けると、静かにしろといわんばかりに睨み返された。
――足音を立てるな
耳元で小さく呟くと、足音を立てないように私の横をすり抜けて階段を上っていく。
慌てて私もその後ろをついて、足早に上り始めた。




