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13

「――おい?」


柿沼は視線だけ俺にむけて、ゆっくりと下に向かう階段の方へ足を踏み出す。


「私には、ただ、彼女が大事なものをとられたくない子供にしか見えませんけど?」


階段に足を降ろすと、話しながら降りていく。


「加倉井課長とも仲がよくて? 哲弘先輩とも仲がよくて? 真崎先輩とも仲がよくて――、一体何様なんですか?」


「……お前、何を言って……」


おかしくなった言動とその雰囲気に飲まれた俺は、柿沼を振り返った。


そこには――


柿沼の数段下の階段で立ち尽くしている、ここにいないはずの美咲の姿。




「美咲――!?」




なんで、お前がここに!?


そして――



「後悔、すればいいのよ」




そう言って、美咲に手を伸ばした柿沼の姿。



「……なっ」




慌てて柿沼を掴もうと伸ばした右手は、空を切り。

後ろで、宮野の叫び声が上がる。



俺は、信じられないものを見るように、落ちていく美咲をスローモーションで見ていた。















********************************************************






少し、時は遡って――――





おかしな雰囲気の哲を問い詰めてみたけれど、原因はよく分からず。

なぜか営業に呼ばれていると言う哲とIDチェックのところで別れて、企画室に戻った私。


――哲が、気になるわけです。


なんだかおかしな様子だった哲。

営業に行くって話しも、よくよく考えてみればおかしな話で。

企画室に戻ってきてたった五分しかたっていないのに、気になり始めたら止まらなくなってきた。



イライラのはけ口を求めて、思わず頬のガーゼを留めているテープに指を伸ばす。

さっき哲に剥がされた時の痛みで肌が敏感になっているのか、気になってつい端を弄ってしまう。


カシカシカシ


弄っているテープから小さな音が鳴っていて、それもまたいらいらさせる要因になっていて。

もう、悪循環――


目を細めてPC画面を食い入るように見ていた私の頬に、ふわりと温かいものが触れた。

「――」

思わず手を止める。

「久我、赤くなってるぞ」


なぜか近くから聞こえる、低い落ち着いた声。

私の右手を押さえる、温かい手。


「……課長」


斜め上に視線を向けると、そこには無表情だけれど心配そうな目をした課長が立っていた。

「どうした? 何かあったのか?」


何か……


何も答えない私を、首を傾げながら見下ろす課長。

気になって反対側の横を見ると、斉藤さんと間宮さんも私を見ていて。


あー、余計な心配かけたかな……


っていうか、そうだよね。気になるなら、哲を追いかければよかったんだ。

私らしくない、なんか遠慮しちゃったよ。

気にしてうじうじしてるくらいなら、さっさと解決してしまおう!


「――よしっ」

あいている左手でぐっと握りこぶしを作ると、課長を見上げる。

「すみません、大丈夫です。私、ちょっと出てきますね」

「え?」

私の言葉に驚いたように動きを止めた課長の手から、右手を引き抜いて立ち上がる。

「どこに行くんだ」

椅子の背にかけておいた上着を手に取ると、にっこりと課長に笑いかける。


「乙女の秘密」


「――は?」


呆気にとられた顔の課長の横をすり抜けて、ドアノブに手をかける。

「おい、久我?」

後ろで立ち上がる音と、斉藤さんの声。

ドアを開けながら、顔だけ後ろに向ける。

「たいしたことじゃないんで! すみません、行ってきます」


そのまま躊躇せず、ドアを閉めた。







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