5
屋上に続く階段を、お弁当片手に上る。
今日も哲は午前中に回る場所があるらしく、まだ会っていない。
なんとなく、昨日の様子が気にかかるんだけど――
屋上へのドアを開けると、冷たい風が吹き込んでくる。
少し身震いしながら屋上に出ると、いつもの定位置……物置小屋の階段へと歩く。
たぶんもう加奈子がいるはず。
「……」
ん?
誰かの声……?
こんな場所に来る物好き、私たち以外にもいたのか……?
そのまま近づいて物置小屋の側面に建つ。
ここから階段は見えないけれど、声だけはよく聞こえる。
「だめねぇ、瑞貴くん。意外と度胸のない」
「そう言わないでくださいよ」
少しすねたような哲の声と、加奈子。
あら……? あらら?
何の話だろう。そういえば、加奈子と二人で話してるの、初めて聞いたかも。
そのまま耳をそばだてる。
「なかなか言いづらいもんなんすよ。俺、気ぃ小さいから」
「まぁねぇ、相手が――」
そこで言葉が切れる。
――? あれ?
相手? ちょっと大事なところで……
と、俯けていた顔を上げると
「うわっ」
加奈子がこっちを見ていて、驚いて声が出る。
「立ち聞きさん、はっけ~ん」
「あら……」
その後ろから哲が顔を出す。
「最悪……」
哲のその言葉に、思わず体当たりするように駆け寄って両腕を掴む。
「哲! 私には話せないのに、加奈子には相談できるの?!」
「あら、やきもち?」
答えない哲の代わりに、加奈子が後ろでほやや~んと呟く。
「そりゃそうでしょ! これだけ世話と面倒を見てきた美咲おねーちゃんにナイショなの!? 昨日もご飯作ってあげたのに、この恩知らずーっ!」
「うるせぇな、これだからお前に言いたくないんだよ!」
私の腕を掴んではがすと、そっぽを向く。
「哲~、裏切り者め~」
恨みがましそうに呟くと、加奈子がうふふ~と笑いながら私の肩を叩いた。
「いじめ返せる最大のチャンスよ、美咲。今までの恨みをぶつけちゃいなさい?」
「おぉ、さすが我が親友!」
「佐和先輩!」
私と哲の叫び声が、屋上に響く。
「ぜってぇ嫌だ! お前には、絶対言わねぇ!」
「よいではないか、ほらほら、おねーちゃんに相談してみ?」
「まぁ、麗しい幼馴染の姿」
加奈子に何か弱みでも握られているのか、文句を言う割には屋上から立ち去らない哲をいじめつつ、お弁当を食べ始める。
加奈子がお弁当を開いた私を見て、珍しい……と呟いた。
「久しぶりね、お弁当持ってくるの」
「ん?」
確かに、いつもコンビニとかだもんね。
箸を取りだして食べ始めると、横から哲がおかずを掠め取っていく。
「哲。話さないくせに、弁当は盗むってどういうことだ」
「お前のものは俺のもの」
――お前は、某アニメの有名な脇役か
内心ため息をつきつつ、あきらめて残りを口に放り込む。