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「宮野さん?」
その言葉が最後通牒に聞こえたのか、
「久我先輩をぶったの、私じゃないっ」
叫んだ。
久我先輩――
思わず、目を瞑る。
私じゃない――
お前じゃない、……ということは。
お前じゃない誰かが、美咲を怪我させた。それだけは、当たっているって事……
「俺、美咲のことなんて、言ってないけど?」
俺の言葉にしまった、という顔をしたけどもう遅い。
口を押さえた手を、空いていた右手で掴んで剥がす。
目の前が、白く霞む。
床が、揺れているんじゃないかと思うほどの、眩暈。
「私じゃ、ない……」
もう一度、繰り返す宮野の顔を覗きこむ。
「じゃ、誰?」
ダレ?
美咲の名前を言ってしまって、言い逃れが出来ないと思ったのか。
それとも、精神的に、何か来てしまったのか。
「か……きぬま……さん」
耐え切れなくなったのかそれだけ呟くと、そのまま、壁を伝って座り込む。
「久我先輩、ぶったの、柿沼さん……です。私達は、見ていただけで……っ」
嗚咽交じりのその声に、殴り飛ばしたくなってくる。
見ていただけだから、罪は無いっていいたいのか?
見ていただけで止めなかったお前にも、罪はあるんだよ。
それでも。
怒鳴り散らしたい感情を抑えて、いつもの自分を演じる。
――あぁ、そうだな。得意だよ俺も。
「ねぇ、宮野さん。今日、定時で退社する時、美咲に怪我させたところに、柿沼さんを連れてきてくれないかな? 俺が呼んでるって言ってもらって構わないから」
同じ場所で、追い詰めてやる……
「――そ……んなこと、出来ない……」
俯いたまま返事をする彼女の横の壁を、足の裏で蹴り飛ばした。
思いのほか大きく響いた衝撃音に、宮野は身体を震わせた。
「出来なくないよな?」
含めるように、言い放つ。
「泣いても仕方ないよ? 自分で蒔いた種は、自分で責任取らないと。俺は六時に、どこで待てばいい?」
「あの……」
「美咲に怪我をさせた場所は、どこ?」
なんとか言い逃れようとするその言葉を、遮る。
俺を見上げる宮野の眼に、贖罪の色が見えても気にすることじゃない。
どうでもいい。
「――ここ、です」
……え?
「ここ?」
鸚鵡返しに呟いた俺から視線をはずして、ゆっくりと頷く。
ここ……、非常階段の……?
もし、美咲が変な外回りを入れた理由が、こいつ等に叩かれたことだったなら。
あの時……昼休憩の時に、されたことになるわけで。
あの日、美咲は外のコンビニにいるってメールしてきた。
なのに、何でここで柿沼たちと会う?
気がついた可能性に、目を見開く。
もしかして、美咲は外じゃなくて社内にいた?
最近企画室以外で俺を避けていると感じていたけど、ホンキで避けてた?
様子がおかしいから原因を……それは美咲の父親のことだろうと……聞き出そうと思ってたけど……。
俺に、聞かれたくない事、だった?
もしかして――
ぶたれた以外にも、何か、されていた?
――いつから……?




